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第14話 町のために


 結界を張って以降、流石にうちの店で不法侵入などの被害が出ることはなかった。俺としても全力で結界を張ったし、これを突破するにはかなりの労力が必要となる。それこそ、仮に〈アビスサンクタム〉の魔物が来ても耐えることはできるだろう。まぁ、そこまでの必要はないだろうが念には念を入れておこう。


 ただ──うちの被害は無くなったが、他の店では荒らされたり窃盗が増えているらしい。


「なんだか、最近は物騒みたいです。ミルダさんのところも被害にあったとか」

「……それは流石に問題だな」


 今はもう夕方で閉店間際。店内も閑散として、俺とリセルはここ最近の町の情勢について話をしていた。


「今回のような被害は今まであったのか?」

「うーん。ゼロではないですけど、今回みたいに連続ではありませんでしたね。前はすぐに犯人も捕まっていましたし」

「なるほど」


 俺は考える。俺は今はこのパン屋だけを守っているが、他の店にも結界を張ったほうがいいのではないかと。もちろん、俺の魔力も無限ではない。この店ほどのリソースを割くことはできないが、結界を常時展開できる魔道具を作成すればいいのではと思った。


 魔道具作成は少しコツがいるが、作り方はそれほど難しくはない。自分の魔法式を空の魔道具に書き込めばいいだけだ。


「なぁ、リセル」

「はい。どうしましたか?」

「結界を展開できる魔道具を作れるんだが、それを他の店にも渡すのはどう思う?」

「え。そんなことができるんですか?」

「あぁ。俺がこの店に張っているほどのものじゃないが、最低限の予防はできると思う」

「それはとても助かると思いますが、まずはお話をしてみないとですね。お店を閉めてら、ミルダさんのところに行きましょうか」

「分かった」


 夕暮れ時。ローテンの街は柔らかな金色に包まれていた。石畳の道は夕陽を受けてほんのりと輝き、木造の家々の影が長く伸びていく。



「おい。あれって──」

「パン屋の新しい人でしょう?」

「ちょっと怖いわね……」

「あぁ。なんでこの町に来たんだろうな」

「本当ね。目つきも鋭いし、何を考えているか分からないわ」

「全く。バランさんの考えは分からないものだね」



 町中を歩いていると、ふとそんな声が聞こえてくる。一応、彼らとは顔見知りではあるが親密ではない。仕立て屋、雑貨屋、カフェ、などの店の人たちが、俺に冷ややかな視線を送ってくる。


 実際のところ、俺はまだこの町に受け入れられていない。一応、リセルと一緒に挨拶回りはしたが、この見た目でかなり怖がられている。愛想もそんなにいい方じゃないのも要因だろう。


 他にも、俺が休憩に入っている時間にだけ来る客などもいる。ローテンはいい町だが、それ故に人々の繋がりが密接だ。俺のような異分子が急に町にやってくるのは、手放しで喜べるものではないのも理解できる。


「ハルさん……」

「リセル。俺は気にしてないから。ただ、そうだな。もっと愛想良く接客とかしないとな」

「そうですね……いつかきっと、皆さんもハルさんの優しさを理解してくれると思います」



 俺たちは〈ミルダ亭〉に到着。早速、入店する。


「いらっしゃい! おぉ! リセルとハルじゃないか」

「ミルダさん。こんばんは」

「こんばんは」

「二人は最近はいつも一緒だねぇ。まるで夫婦のようだよ」

「わ、私とハルさんは……そ、そんなんじゃないですよ! ね、ねぇ? ハルさん」


 リセルが俺の様子を窺うような視線を向けてくるので、素直にそれは否定しておく。リセルにも失礼だしな。


「そうですね。普通に仕事仲間って感じですかね。ミルダさんの言うような、特別な関係ではありませんよ」

「なんだい。それはつまらないねぇ」

「むぅ……」


 なぜかリセルは不満そうに半眼でじっと俺のことを見つめてくるが、その理由は俺には分からなかった。


 そんなやりとりをしつつ、俺たちはいくつか料理を注文するが──


「ごめんねぇ。ちょっと色々とあって、食材が十分じゃなくて。今日は肉料理は出せないね」

「全然気にしないでください! その実は今日は──ちょっとお話があって。ハルさん。お願いできますか?」

「あぁ」


 俺はミルダさんに結界の件を伝える。魔道具を置いてそれによって結界を展開する──という話をした。


「それはありがたいけど、その結界とやらはどれくらい保つんだい?」

「魔力供給をすれば、ほぼ無限ですね。それに、自分が定期的に魔道具のメンテナンスもしますよ」

「なるほどねぇ。確かにそれで被害が抑えられるなら、いいんだけど。実際、魔道具なんてお高いだろう? お金はどれくらいかかるんだい? 最近は魔道具の素材が高騰しているとかで、高いって聞くけどねぇ」

「え……あーえっと」


 全く考えてなかったので、言葉に詰まってしまう。普通にタダでやろうとしていたからな。俺としてはそこまで労力になるわけでもないし、次の休日に一日あれば十分に作ることができる。


「お金。やっぱ要りますかね?」

「ん? どういうことだい」

「いやぁ、実は普通にタダでやろうと思っていて」


 そう言うと、ミルダさんが大声を上げる。


「はぁ!? あんた、魔道具の提供をタダでやろうとしていたのかい!」

「はは。実はそれほど手間でもないので」

「それにしても、タダは問題だよ。うーん。相場は知らないけど、王都でその手の魔道具を特注すると、金貨が十枚はいるだろうねぇ」

「そ、そんなにですか……高いですね。ではとりあえず、お試しでいかがですか? 効果が出たら、その時にお支払いいただくということで。自分もお金のことは考えておきます」


 そうだな。休日に魔道具の素材を取りに行くついでに、王都で相場も見ておくことにしよう。


「その結界って、もしかして人間以外にも効果はあるかい?」

「そうですね。魔物とかにも効果はありますよ」


 あぁ。なるほど。そこは飲食店にとっては問題にはなってくるか。何も荒らしてくるのは人間だけではない。ここローテンは田舎だし、森やダンジョンも決して遠い場所にあるわけではない。魔物が農家や飲食店を荒らす話は、俺も過去に聞いたことがある。


「なるほどねぇ。じゃあ、まずは試させてもらうよ」

「分かりました。では魔道具ができ次第、持ってきますね」

「あぁ。頼むよ」


 ということで、俺はミルダさんに結界を生成できる魔道具を渡すことになった。それで被害が減ってくれたらいいが。


 ミルダさんの店で食事をした後、リセルと俺は二人で帰路へとつく。


「ハルさん。良かったですね! ミルダさんが前向きみたいで!」

「あぁ。俺としても町の力になれたら嬉しいよ」

「きっとハルさんが町のために頑張ってくれると分かったら、みんなも認めてくれると思いますよ!」

「はは。そうなるといいが」


 町の人に認められることになる。だが、この魔道具作りにより俺の立場はそれ以上のことになっていくのだが……そんなことも知らずに、俺は魔道具作りに思考を巡らせるのだった──。

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