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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

婚約破棄された公爵令嬢は拍手喝采する

作者: ひよこ1号

※登場以降王弟のターン

とある王国、とある学園、とある卒業パーティにて。

祝辞の為に登壇した筈の王子が、言い放ったのは、とんでもない言葉であり物語の定番の台詞である。


「エフェリーン・ベイレフェルト公爵令嬢!君との婚約を破棄するっ!」


見目麗しい王子殿下は金髪に青い目の端正な顔に怒りを滲ませて、右手を前に突き出して宣言した。

左腕には、伯爵令嬢が勝ち誇った顔でしがみ付いている。


スッと名指しされたエフェリーンが前に進み出て、抗議するのか、受け入れるのかと会場の視線が集まる。

王子がその姿を憎々しげに見て、何か言おうとする前に、拍手が響いた。

何と、今しがた婚約破棄をされたはずの、エフェリーンがぱちぱちと感極まったように手を叩いていたのだ。


何ごと!?


会場にいた大勢の人間は目を瞠ったし、度肝を抜かれた。

王子や王子の周囲にいる高位令息達も明らかな異常事態にうろたえている。


「流石ですわ!王子殿下!やはり、お気づきだったのですね!?わたくしが幼い頃よりお慕いしている方が別におりました事を!」


「は?」


王子はとても端正な顔をとても間抜けな表情に変えた。

だが、他の者も大量の疑問符を頭に浮かべて見守っている。


「さりとて、王家から持ち込まれた縁談ですもの。何度かお断りしたようですが、結局王命で結ばれてしまっては、公爵家としてもそれ以上拒否する事は叶わなかったと父も母も悲しんでおりましたの。わたくしも、お慕いする方と出会ってからその話を聞いては涙にくれておりました……でも!王の命に逆らってでも、有責を背負ってでも、わたくしを解放してくださる王子殿下のご寛恕、素晴らしゅうございます!勿論、慶んで承ります!」


いつも澄ましていた公爵令嬢のエフェリーンのキラッキラな眩しい笑顔に、男性諸君は息を呑んだ。

美しい銀の髪に、神秘的な紫水晶の瞳は王国の至宝と称えられる美しさだが、こんなあどけない可愛らしさを潜ませているとは誰も思っていなかった。

一部、女性の友人方にしか知られていなかったのだ。


「エフェリーン!私の言った通りだっただろう?」


そこへ颯爽と現れたのは、この国の王弟殿下である。

エフェリーンは声の主を探して、その目に映すとこれまた周囲を蕩けさせるような甘い微笑みを浮かべた。


「ああ、ディルク殿下!わたくしの最愛の方、ええ、全て殿下の仰った通りでしたわ!」

「良かったね、これで私達の間の障害は全てなくなった」

「はい。ディルク殿下。王子殿下がまさか、婚約祝いを兼ねて慰謝料までくださるなんて、本当に殿下の仰る通りで……心憎い演出を頂きましたわ!」


大輪の花が咲き誇る様な笑顔には悪意など微塵もない。

本気でそう思っているのだ。

王子は、愕然とした。

この後、嫉妬したエフェリーンが伯爵令嬢のアレイダを虐めたという罪で、エフェリーンこそが有責なのだと示そうと思っていたのに、見事に引っくり返されてしまったのだ。

元々冤罪であり、だがしかし、動機があるからこそ真実としての説得力をもつものが、その動機がまるごと無くなってしまったのだからこの場で言い出したら恥を掻くのは王子の方である。


「ああ、そうそう。君達の婚約宣言を邪魔してしまったかな?親愛なる甥御殿」

「は、いえ、その……」


傍らのアレイダを見れば、こちらも顔色が悪い。

側近達も呆然としていた。


「まあいい!今日は卒業祝いに加えて、婚約祝いも重なった目出度い日だ!私とエフェリーン嬢の婚約、そしてアレイダ・デ・ボック伯爵令嬢と、我が甥カスペル王子の婚約、陛下と両家の承認も戴いている。皆にも祝って欲しい」


そう優雅に微笑まれれば、会場の者達は何も意見を差し挟めるわけもなく、安堵した雰囲気が流れた。

正装に身を包んだ、ディルクは王弟という立場ではあるが、卒業生たちとの年齢差は10歳程度であり、大人の男性らしい落ち着いた佇まいの美丈夫だ。


スッとエフェリーンに手を出して乞うた。


「どうか、君と踊る栄誉を私に」

「はい。こちらこそ、この日をどれだけ待ち望んだか……」


涙ながらにはにかむエフェリーンは、花の精のように愛らしく、今まで彼女を守ってきた友人達はほっと胸を撫で下ろす。

幸せそうに寄り添う二人は、会場の中心に進み出て、これから祝宴の始まりを告げる始まりのダンスを踊るのだ。

中央に立ったディルクは呼びかける。


「何をしているカスペル。君も愛しい婚約者を連れておいで。一緒にダンスを楽しもうじゃないか」

「……は、はい。いこう、アレイダ」

「はい、殿下」


自分達の作った流れと違う流れに乗せられて、二人は中央に進み出た。

ある意味、それが公開処刑となる。

雰囲気に呑まれたカスペルとアレイダのダンスはぎくしゃくとして、美しいと言い難いものだった。

対してディルクとエフェリーンはお互いを見つめ、微笑んで話をしながらも、優雅で美しいダンスを披露したのだ。

王と王妃となる風格も品格も、どちらが上か、それは次世代を担う者達の目に焼き付いた。




学園を卒業しようというディルクが17歳の頃出会ったのが、無理やり甥の婚約者にされた7歳のエフェリーンだった。

庭の白い薔薇が咲き誇る茂みの影に隠れて泣いているのを見つけた時は、妖精かと思う程愛らしく。


「どうしたんだい?」

「……わたくしも婚約したくなかったのに、王子殿下がわたくしのせいだと仰るの」


こんなに愛らしい婚約者の何が不満なのか。

それとも、好きな相手の気を引きたいという子供らしい意地悪か。


「君は、お姫様になりたくないの?」

「なりたくないです。領地で羊になりたい」

「ふはっ!」


思わずディルクは笑ってしまった。

羊と暮らしたいではなく、羊になりたい、は斬新だ。

それに、羊になりたいのなら、窮屈な姫など嫌だろう、とその頭を撫でる。


「じゃあ、私と結婚しないか?だいぶ先の話になってしまうが、君を大事にするよ」

「意地悪しませんか?」

「しないよ。お姫様にも羊にも、好きなものになれるように私も努力しよう」


指で頬に流れた涙を掬うとエフェリーンは擽ったそうに微笑んだ。

今はまだ歳は離れすぎていても、婚姻する頃には大した差ではない。


「君は今の愛らしい、優しい女の子で居て欲しいが、城ではそれを見せてはいけないんだ」

「はい……教育係もそう申しておりました」


淑女教育も王子妃教育も厳しい。

その中で失って行ってしまう美徳もある。

勿論、そうなってしまったとしても、仕方のない事だ。


「だから、本当の君の姿は消してしまうのではなく隠してしまおう。私や仲の良い召使や友人や家族にだけ見せていい。後は、求められるように振る舞うだけだよ」

「本当のわたくし……はい。お言葉に従います。そうしたら、意地悪な王子殿下との婚約はなくなりますか?」

「ああ、約束する」


もし、カスペルがこの先立派に育てば、エフェリーンも側にいるカスペルに惹かれるようになるだろう。

それならそれで良い事だ。

だが、今のままの性根で成長すれば、エフェリーンは苦しめられるだけ苦しめられる。

子供時代を奪われた上に、尊厳まで奪われる結果になり兼ねない。

せめて、その心の支えになれるだけでも良いだろう。

決定的な過ちを犯さなくても、カスペルが傲慢なままだったら、背中を押すくらいは簡単だ。

後は堕ちていくだけ。




「私は退席するが、祝宴の続きを楽しんでくれ」


踊り終わったディルクがそう言って微笑めば、婚約者を伴って中央に進み出た令息と令嬢が踊り始める。


「さあ、カスペルにデ・ボック嬢、それから君達も。別室へ行こう。大事な話がある」


言いながら使用人に目配せすれば、女性の使用人が飲み物を持ってエフェリーンに近づいた。

護衛をしながら、彼女がエフェリーンを友人達の元へ連れて行くだろう。


ディルクはエフェリーンという花を枯らさないように、常に気を配ってきた。

贈物や手紙を送って、偶に公爵に同席を頼んで訪ねたり。

純真で愛らしいエフェリーンはそのまま、淑女としても誇り高く成長した。

相変わらずなカスペルに心を砕かれる事もなく、ディルクの言葉をただ一心に信じて。



「予想はしていると思うが、君達の処遇についてだ」


足を組んで座るディルクの堂々たる姿に、学生を卒業したばかりの面々は足を揃えて萎縮した状態で座っている。

王子のカスペルだけが、不満そうに言葉を発した。


「何を言われるのか。何も問題は起きていません」

「何を言うかと思えば。それは、私とエフェリーンのお陰だろう。まあ彼女は天然だが……、衆人環視の中で王族が婚約の破棄をするなど、貴族達の反感を買うようなものだ。少なくともお前の後ろ盾となる者は皆無だろう。ああ、デ・ボック伯爵家?が後ろ盾かな?」


「は?いや、公爵家も…」


と言ったところで、流石にカスペルもハッとした。

婚約を破棄しておきながら、後ろ盾を求める事は出来ない。

虐めという冤罪を以て、それを不問とする事で初めて成り立つ話なのだ。

そして、言い直した。


「此処にいる者達の実家も、後ろ盾と考えて頂いて宜しいのでは」

「ほう……廃嫡が決まっている御子息達の実家がねぇ」


くつくつと笑うディルクに、側近達の顔が蒼褪める。


「廃嫡?……廃嫡とはどういう……!?」

「発言を許可した覚えはないが、まあ、いいだろう。無礼講だ。君達は婚約者を蔑ろにしていただろう?彼女達もご両親も婚約者の変更に同意したんだよ。後を継ぐのは実弟か、従兄弟かそれは家門によるが、少なくとも君達は後継ではなくなった」


ガタガタと震える令息も居て、カスペルは憤って立ち上がった。


「王子の側近ですよ!?そんな簡単に……」

「ああ、後ろ盾のない王子に何の価値がある?一国をねじ伏せる強さも頭脳もない君に、何の価値が?せめて根回しをする賢さ位あれば、自分が如何に愚かな事をしていたか、自覚できただろうにな」


ずっと婚約者を蔑ろにしてきたのは事実で、公爵家も怒りを溜めていた。

側近達を窘める事もせず放置してきたから、彼らの婚約者とその家門からも怒りを買っている。

暗に、立太子されないという事を揶揄されて、カスペルはカッと頬を怒りで赤くした。


「まさか、王位を簒奪する気ですか!?」

「誰から?兄上から簒奪などしないよ。君は王位を継いでも居ないのに、もう自分の物だと思っていたのかい?並みいる貴族家を押しのけて、教育も受けていない伯爵令嬢を妃になど選ぶ君を、誰が支持する」

「それ、は……」


口篭もったカスペルを、優雅な微笑みでディルクは揶揄した。


「会場に戻って聞いてごらん?次の王に相応しいのは誰か。私より君を選ぶという子達がどれほどいるか、気になるね」


自分だ、と言い切れる自信は無かった。

カスペルは横暴だったつもりはないが、側近や近づいてきたアレイダとその関係者くらいしか交流していない。

気付けば、そうなっていた。


だが、エフェリーンはどうだったろうか?

近づき難いと言われていた彼女は、あんなにも明るく可愛らしく話す女性だったか。


カスペルには思い出せなかった。

それに、政務の中心にいて若輩ながらも国事を取り仕切る王弟と、卒業したばかりで何の業績も無い王子では雲泥の差だ。

彼も王籍にあるのだから、継承権は高い位置にある。


「慣れ親しんだ環境に依存してしまうのは分かるが、王たる者の器ではないよ。君には王子領をそのまま与えると陛下も仰せになっている。一代限りの侯爵位も授けてくださるそうだから、有難く拝領するように」


もう、決められていたのだ。

ディルクが颯爽とこの場に訪れる前に、全て。

力尽きた様に項垂れるカスペルに、殊更優しい声でディルクは言った。


「これからの君の成長次第では、君の子供も良い待遇を得られるだろう。研鑽を積むと良い。ああでも、君達側近は、残念ながら行先は決まっていてね。肉体労働が必要な場所はいくつかあるんだ。どこであろうとも、努力すればそれなりに幸せになれるよ」


にっこりと優し気に微笑まれたところで、悲惨な運命から逃れられる訳もなく。

部屋にいる騎士達に連れられて、令息達は一人また一人と家へと送り届けられた。

残されたカスペルは、ディルクに問う。


「もし、私の子が優秀なら王位にも手が届く可能性はありますか?」

「まず、子供が出来なければその話には意味がないだろう?彼女が身籠ったなら、またその時に話をしようではないか」


否定はされなかった事で、カスペルの眼に希望が宿る。

だが、当然の事ながら、王籍から外れた者に王家の血筋を残す事は許されない。

優秀ながらも臣籍降下する場合もあるが、その場合は臣下として子孫を残す事は許されているし、もしも王家の血が途絶えるような問題が起きたなら、復権する事もあるだろう。

だが、無能と判断されて下る場合は別だ。

争いの種は最初から潰しておくに限る。

それすら分からないのだから、無能なのだ。

今全てを突き付けてしまっては面白くない。

彼女の耐え抜いた年月と同じ位、努力して領地を治め、果てに絶望して貰わなくては。


一年後、立太子されたディルクの横には、王太子妃としてエフェリーンが幸せそうに微笑んでいた。

カスペルは侯爵位を貰い受け、伯爵令嬢のアレイダと婚姻したが、まだ子供は宿っていない。

令息達は鉱山や、辺境騎士団に送られたり、他国の貴族家に貰われて行った者もある。

その代金や給金は、婚約者達への慰謝料を立て替えた実家に送金されていた。


数年後、やっとアレイダが身籠ったと手紙が来た。

まるでアレイダが悪いかのような文言だが、身籠らなかった理由はカスペルだ。

アレイダに罪があるとしたならば、無駄な種を蒔かれても芽が出ない事を責められて、他の種を求めた事だろう。

カスペルに相談の上なら良いが、違った場合はどうなるか。


カスペルに手紙を返す。

王族でもない夫婦の元に生まれた、種の分からぬ子供の為に顔を合わせる必要などないのだから。


「お前はとうに断種されているが、その子供の父親は誰だい?」


一言だけ書いて送るが、返事は無かった。

暫くして、王家に内密の訃報が届けられることになる。

カスペルが乱心して子供と妻を殺害して、自死をした、と。


一緒に育てていく未来は無かったか、とため息が漏れたが、それはそれで仕方のない事だ。

三人は病死したという事にして、葬式だけは手配する事にした。


「あら、ルク様、ご機嫌が宜しいのね。ふふ、この子も笑っていてよ」


愛しい姫を抱っこした、愛しい妻が微笑む。


「君の顔を見たからかな。さあ、暖炉の傍へ行こう。此処は少し冷えるから」

「ええ」


訃報を伝える手紙も、子供が産まれたと報せる手紙も、ついでのように火にくべた。

何れエフェリーンの耳に届くとしても、ただの病死であれば彼女の心にはさざ波一つ立たないだろう。

エフェリーンの幸せそうな微笑みを見ながら、ディルクも幸せそうに微笑みを返した。

世にいふスパダリなるものを書くなどしたり。

この位歳の差あれば、ソロで陰謀+囲い込み出来るかなという10歳差。ロリコンと思われるかもしれないけど、奪えたら奪おうくらいの野心からでした。まあ、馬鹿の尻拭いばかりの仕事も嫌だし、純粋な愛というより王命で強制的に結んだ家の令嬢を略奪出来れば丁度いいという打算。愛だけで突っ走る様なヒーロー多いけど、ヒロイン助ける側も愛だけで動いてるなら婚約破棄言い出す王子とあんまり変わらないんじゃないかなぁ、と。為政者なら清濁併せ吞む人が優秀だと思っているひよこ。

あっ、そういえばモロゾフのチーズケーキ大好きです。あの、市販の手作りチーズケーキのクールンていうのも大好きで、この二つ何か味が似てる気がする(両方好き)

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― 新着の感想 ―
うん、チーズケーキに全部持って行かれた。
いろいろ感想を思い浮かべていましたが、全部チーズケーキにもってかれました お昼にと冷凍ピザを用意しましたが、このチーズじゃねーんだよ…の気持ちでいっぱいです(いいぞ、もっとやれ)
さす王族……とか思っていたのにお口がチーズケーキになった。 深夜の2時に。 どうしてくれる!どうしてくれる!(;´༎ຶ益༎ຶ`)
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