11)一男四女を生む民族
とある暑い地域の、とりわけ中央に位置する国にその民族は存在した。
少数民族が多数を占めるこの世界において、その民族は非常に珍しいことに国の90%を超えるほど人口の多い民族であった。
この民族は「タ=ルヴァン」と呼ばれている。意味は「大家族」である。
名前の通り、この民族は大家族を形成するがその形は人族における大家族とは少し異なっている。
彼らは一夫多妻制であり、大黒柱となる男性は必ず4人の妻を迎えることが決まっている。そしてその4人の妻は必ず4姉妹であり、一斉に嫁ぐのだ。
大抵は長女が結婚適齢期を迎えるころに他の妹たちを連れて嫁ぎに行く。そのため、妹たちは結婚適齢期を迎える前に妻となることが当たり前である。長女と末妹の歳が離れている場合、物心つく前に妻となっていることもままある。
そして、一家につき4人の娘と1人の息子を授かる。不思議なことに、この数は決して変動しない。どの家庭でも必ずこの割合の子どもが生まれるのである。
男児は1人しか生まれないため、非常に大切に育てられる。その男児がいずれは、他の家の姉妹を一斉に娶るのである。
女性がひとりで嫁に行くことはまずなく、民族的にもタブーとされている。夫に甲斐性がないと批判されるためである。
非常に男性の地位が高い民族であり、男尊女卑が当たり前のように存在する。夫は亭主関白で妻を殴ることがしばしばある。そのため、妻たちの結束はとても強い。
女性は結婚するまで夫以外の男性を知らない。付き合うという概念もなく、夫以外の男性と手を繋ごうものなら下品な行為だと批判されて家を追い出される。
結婚相手は家長(父親)が探して決めるため、当人たちに決定権はない。当人たちもそれが当たり前のこととして身を委ねている。
核家族が一般的であり、家に子どもが残ることはない。長男は成人すれば外に出て新たな家を建て、妻たちを迎える。
収入源は大黒柱である夫がほとんどを稼ぐため、夫が亡くなると悲惨である。裕福な家が未亡人たちを妻として迎えるという救済の習慣はあるものの、子どもを含めればかなりの人数になるために、実際にそのような手が差し伸べられることは少ない。
結婚するためには結納金が必要であり、男性が女性の家に納める。その時に4人分の結納金を納めることが出来なければ、甲斐性がないと判断されて結婚の話は流れる。
結納金は妻の両親に納められるため、結納金を老後の資金に充てることが一般的である。
結納金が非常に高いために、中には結婚まで時間がかかる男性も存在する。
男尊女卑であるため、男性しか入ることの許されない建物がある。逆に女性専用の建物も存在するが、大抵は風呂屋である。女性の買い食いははしたないとされタブー視されている。
商店街への買い物は男性と同伴が当たり前であり、女性がひとりで外に出ることは危険であるためあまり良くない。そのため、大抵は夫婦か姉妹で行動する。
高貴な家では、自宅まで行商人がやってきて妻たちに高価なアクセサリーや化粧品などを売る。
女性は内職は許されているが、外へ出て稼ぐことは夫に甲斐性がないと判断されて世間から冷たい目で見られる。そして、妻たちの父親から離縁の話を持ちかけられる事態になる(あくまで話だけ)。
学校は現代で言う中学校まであるが、男性しか入学が出来ないため女性たちは文字を読むことも数を計算することも出来ない。成績優秀者は学校から推薦状をもらって隣国の都へ渡り、入試を受けて合格すればより高度な学問を学ぶことが出来る。現代でいう大学相当の学校であるため、入学できるまで塾のような場所で住み込みで働きながら勉強し、下積み時代を送る。
その国では高度な教育がなされ、著名な学者も多く在籍していた。塾や大学には地方から多くの人種や民族が集まるため、世界の縮図とも言われている。ちなみに歩いて3ヶ月かかる道のりである。年齢的に妻を娶る時期でもあるため、家が裕福であれば妻たちと共に国境越えをする者もいる。裕福でなければ独り身でし、年齢を重ねたあとに働いて得たお金を手に帰ってきて妻たちを娶る。基本的に、男性は絶対に結婚しなければならないためである。
ちなみに、隣国の都へ行く男性の中には都で出会った女性と恋仲になることがままある。ただでさえ貴重な男性が他の民族の女性を娶ることは民族において裏切り行為であるため、基本的に民族から追放され両親も白い目で見られる。それを回避するために、都にいる間だけ共に暮らす者もいる。
そして里へ帰る際にきっぱり別れる者もいれば、ズルズルと引きずり、愛人のような関係を持つ者もいる。そういった男性は仕事の用事があるなどと嘘をつき、都で待つ愛人の元へ定期的に通うようになるのだ。
浮気していることがバレると離婚はしないが妻たちから白けた目で見られ、周囲の男性から大バッシングされる。妻たちの父親からはもれなく殴られる。
男尊女卑が主流といえど、民族の大半が女性であるため女性の反乱を男性たちは恐れていたりする。女性に選挙権を与えなかったり、学校へ行かせないのはその表れでもある。
そんな中、特に民族全体を震撼させた事件がある。
夫の度を超えた暴力に耐えられなくなった妻たちが共謀し、子どもと自身を守るために夫を計画的に殺害したという事件である。
この事件が起きた当初、男性たちは必死に事件を隠蔽しようとしたが女性による噂話を止めることが出来ずに露呈した。その結果、女性たちの意識が変化し、自立を望む声が上がるようになる。
そしていずれは女性の労働や勉学が認められるような風潮になる。どんなに優秀な賢者や戦士でも、数の暴力には敵わないのである。