9)小さな神々
世の中には不思議な力を持って生まれてくる子どもがいる。
その子どもが使う魔法は、どの魔法書にもない魔法であり、解読することは不可能であった。
なにか大いなる存在がその子に宿っている。あるいは力を貸している、そう人々は思った。
その証拠に、子どもが魔法を使うと足元の地面から植物が生え、花が咲き乱れるのである。種の状態でも急速に成長し、本来は花の咲かない草木であったとしても花を付けた。
子どもは大地に力を与え、その地は枯れることを知らない実り豊かな土地になった。
その子どもが生まれた時も、周囲では不思議なことが起こっていた。冬にもかかわらず季節外れの花が咲き誇ったのだ。
また、別の子どもは魔法を使うと身体から眩い黄金の光を放ち、その光を浴びた物はすべて浄化されたという。
そして、魔を寄せつけないその光は盾のような役割を果たし、如何なる攻撃も退けたと語られている。
さらに別の子どもはいかなる病をも治す魔法を使い、その子どもが少し手を触れただけでも、たちどころに完治したという。
治癒された人々は若返り、寿命が伸びたと伝えられている。
そして、歴史を覗くと遥か太古の時代には、一度に1万の人々へ力を分け与え、分け与えられた人々は通常の何倍もの力を発揮し、迫り来る魔物を退けたという。
別の歴史書では、天候を自在に操り雷や雨雲を手懐け、一息で巨大な風を生み出した子どももいたという記述も残されている。
人々はその子どもたちを「小さな神々」と呼び、神のごとく崇め称えた。
しかし、「小さな神々」はどれほど力を持っていたとしても誰一人として大人になることが出来なかった。
不思議なことに、歴史に残る「小さな神々」たちはみな10代後半を迎えると死に至るのである。病に犯されて死亡したり、殺害されたり、あるいは事故死によって大人になる前に死んでいるのである。
そのため、彼らは穢れのない天使であり、短く苛烈な人生を送る運命にあった。
しかし裏を返せば、10代後半の死を迎えるまで「小さな神々」たちはあらゆる死から守られていた。
例えば、事故や災害に巻き込まれても奇跡的に助かるのである。重篤な病にはかからず、その場の危険から自然と回避する術を持っていた。
なにか大いなる存在がその身に宿っている、あるいは守っているのではないか、という人々の考えはここから来てもいるのだ。
「小さな神々」たちは時代の転換期に現れることが多く、一度現れれば権力者たちが血眼になって支配下に置こうとした。
彼らが現れる時は大抵、市民にとって地獄のような時代であり「小さな神々」が一人でも革命側に入れば支配階級の打倒は確実になってしまうからである。
そのため、「小さな神々」の中には支配者に捕まって死ぬまで塔に閉じ込められた者もいたという。
監禁せざるを得ないのは「小さな神々」を殺そうとしても、何か別の力が働いて殺すことが出来ないためである。