22)守護の一族
その一族では代々、長男が守護者に選ばれた。
食料が乏しいこの土地では、人口の増加は共倒れの危険があるため長男のみが妻を迎えることを許された。
故に子どもは2-3人と決められている。次男と三男は大人になっても未婚を強いられるか、あるいは長男の嫁を共有するかのどちらかであった。
ちなみに女児は大人になる前に体調を崩して死ぬか、人口の多い村に行き嫁入りする決まりである。長男以外の子どもたちは、例外なく長男と両親のために働き補佐する立場にあった。
一族の住む土地は人里離れた僻地にあり、また乾燥した大地であったため作物がほとんど育たない不毛の地であった。それでもそこに住み続けるのは、古に交わした契約が関係している。
彼らはおびただしいほどの墓に囲まれて暮らしており、守護の一族が住む土地は神聖な場所であるため、王族や名高い巫女などといった地位の高い者たちがこの地に埋葬された。高価な装飾品と共に埋葬されるため墓泥棒が多く訪れるが、彼ら一族はそんな不届き者から墓を守っていた。
しかし、主に守護しているのは全く別のものである。彼らは、巨大な洞窟に作られた神殿を守護するために存在していた。
聖なるその場所は、決して人が足を踏み入れることを良しとしなかった。神殿の外見を一目見ただけで今の技術では到底造れないであろうことが分かるほど、未知の技術で埋め尽くされその造詣も非常に素晴らしかった。
一族に伝わる伝承によれば、この神殿はかつて神が当たり前のように降臨していた神話の時代に造られたものだという。
しかし神々が天界に留まるようになると、地上で繁栄していた文明は衰退して行った。そして世界に数カ所だけ文明の痕跡を残して、かつての大文明は消滅したのである。
この神殿はその内の1ヶ所だった。一族ははるか昔に天からの使いから"子々孫々、この神殿に誰一人として入らせぬよう力を与える"と契約を交わした。
そして、守護者となった長男には奇跡が与えられた。疾風を操る力と無尽蔵のスタミナ、そして1週間もの間、飲食をせずとも生きていける強靭な身体を。
片手を振れば風が巻き起こり、竜巻も容易に生み出すことが出来る。風は雨雲を引き寄せ、大嵐を呼ぶことも可能であった。
また、疲れることを知らないため常人には考えられないほどの絶え間ない修練が可能となり、若くして達人の域に到達する。
そうして、彼らは人智を超えた能力と力を合わせ持った。故に、長いことこの地を守護することが出来ていた。
世界に点在する遺跡には、彼ら守護の一族のような天と契約を交わした"番人"が存在している。そうして、永遠とも言える期間、彼らは契約に従って遺跡を守っているのである。
一族が守る遺跡が大国の中に存在する場合、禁足地として指定し侵入すること自体法律で禁止している国もあった。
なぜ遺跡を守る必要があるのか。ひとつは、この世界の人々にかつて大文明が存在しておりそれが滅んだことを示すため。
もうひとつは、神々が再臨したときに遺跡を使用するためである。
遺跡の中にはかつて大文明で使用されていた機械や道具が数多く保存されていた。道具というのは扱い方を間違えると破滅をもたらすことがある。
遺跡に眠っている未知の技術のほとんどは、世界を滅亡へ導いてしまう可能性があったため誰も足を踏み入れないよう護る必要があったのだ。
〈余話〉
その昔、調査と称して遺跡に入ろうとした調査団がいた。彼らは守護の一族と対立し、頑なに阻止する一族を邪魔に思い拘束した。もちろん、契約により一族の長男は人智を超えた力を持っていたが、上には上がいるものである。
つまり、調査団は彼らを殺せる力を持つ強者を雇い、力を持つ長男と父親を倒したのだ。
そうして遺跡に入った彼らは、遙か時を超えていまも残されている超文明を目にした。みな驚嘆し、震いが走るほどの圧倒的な光景がそこにあった。一通り調査を行い、さらなる調査のためにいくつかの遺物を手に持ち遺跡を出た彼らは、目の前にいくつもの死体が転がっている光景を目にする。子どもから老人まで、全ての人間が口から血を吐いて死んでいた。
死んだ者達は守護の一族であった。彼らは契約を破ったため一人残らず変死を遂げていた。そして遺跡に足を踏み入れた調査団28名も、1週間の内に激しい痛みを伴う死を迎えることになる。
中でも遺物を持ち出した3名は原型を留めないほどの悲惨な形で死亡し、人々はそれを見て恐れおののいた。不幸はそれだけでは終わらず、調査の許可を出した国王はその身に呪いを受けた。結果、全身が黒く変色したかと思うと急に人の二倍以上に膨れ上がり、およそ考えられる中で最も恐ろしい姿となって死んで行った。
呪いは連鎖し、王の血を分けた他の王族もすべて変死した。呪いは隠し子にも及び、市民の中でも多数の死者を出したのだった。
しかし関係者の中でただ一人、雇われた強者だけは生き残った。人々は彼が遺跡に足を踏み入れなかったからだと考えた。それでも罪を逃れることは出来ず、呪いにより手足が腐り落ち使い物にならなくなった。達磨のように転がる強者を見て、人々は幸運だと思う。
少なくとも、生かされているのだから。




