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21)星を見つける男



 かつて自分に必要のない物を見つけることが得意な、風変わりな男がいた。


 男は生まれたときからその特殊な能力を持っていたが、心の底から煩わしいと思い、叶うなら別の才能と交換してもらいたいと切実に思っているほど嫌悪していた。


 しかし不思議なのは、男が見つける物は必ず他の者に見えないような隠れた場所に存在しており、いくら人里離れた山の奥でもドラゴンの巣の真下でもいとも簡単に見つけてしまうのだった。


 男曰く、目をなんとなしに向けた先に星のような小さい輝きが見えるのだという。それがどれほど深い底なし沼の底にあろうとも、怪物の腹の中にあろうとも光って見えるという。


 しかし、星を見つけたとしてもそれは必ず男にとってガラクタ同然であり全く欲しくない物であった。そのため、男は星の輝きを見つけても無視するようになった。


 それでも若い頃は見つけた輝く星を手に入れたいと思い、死ぬ思いをして手に入れたことが3回あった。しかし、命懸けで手に入れた物が男にとってなんの価値もないガラクタだと分かると、心底ガッカリしたものだった。


 だが、ガラクタといえどあれだけ大変な思いをして手に入れた物を捨てることは出来なかった。


 男が手に入れた3つのガラクタはどれもそう大きくはなく、アクセサリーのような小物であった。ひとつは指輪だったので右手にはめて、ふたつ目は風変わりなネックレスだったので首にかけ、最後のひとつは錆びた金属製の笛だったのでカバンに付けていた。


 すると、不思議なことが起こった。男の元へ3人もの人間がやってきて、それぞれの星をどうか譲ってくれないかと涙を流さんばかりに訴えて来たのだった。


 その3人は同時に来たのではなく、バラバラにやってきた。3人は地位も、性別も、年齢も、さらには人種すら違っていた。



 最初にやってきたのは、従者を連れた貴族の夫人だった。夫人は杖をつくほど年老いていたが、瞳の奥に強い意志を感じさせる芯の通った女性であった。


 夫人は男がカバンに付けていた錆びた笛を見て泣いていた。そして、いくらでもお金を払うからその笛を譲って欲しいと懇願してきたのだった。


 男はすぐにあげても良かったが、錆びてボロボロになった笛に大金を払う理由を知りたかった。なぜなら、この笛は鑑定してもらった時に金にする価値がないと断言された代物だったからだ。


 夫人は、その笛がかつて亡くした息子が大切に持っていたものにそっくりなのだと言った。その笛は息子が殺された時に奪われたが、犯人を捕まえても行方が知れなかったのだという。


 息子には婚約者がおり、鳥が好きな彼女に小鳥を呼ぶ笛をプレゼントする予定だったと夫人は涙を流した。その婚約者も他の家に嫁いでしまったため、せめて息子の墓に供えたいとつぶやいた。


 男は夫人に笛を渡すと、金は要らないと告げて去った。この笛はとある湖の奥底に沈んでいた星だった。巨人でも届かないほどの水深にあったため、溺れ死にそうになりながら手に入れたことを男は思い出していた。


 息子に恨みを持っていた誰かが湖に投げて捨てたのかも知れない。


 そう思ったが、男はそれ以上のことを考えなかった。興味がなかったからである。



 次にやってきたのは王の城で働く家臣だった。その者は何日も寝ていないのか目の下に酷いクマを作っており、心底疲弊した表情を浮かべていた。


 家臣は男の首にかかっているネックレスを一目見た瞬間、血相を変えたように走ってきたかと思うと、地べたに這うように「お願いだ! そのネックレスを良く見せて欲しい!」といって男の足を掴んできたのだった。


 男がネックレスを見せると、家臣はだーっと涙を流してひたすら神に感謝の言葉を捧げていた。そしていくらでも払う、どうかネックレスを売ってくれないかと言い出したため、男は価値のないこの風変わりなネックレスを欲しがる理由を知りたがった。


 家臣は口ごもったが、男の頑なな表情を見て諦めたようだった。曰く、この国の姫は甘やかされて育てられたせいでひどくワガママであり、日々、家臣やメイドに無理難題を吹っかけるのだという。


 しかもこだわりが人一倍強く、姫の要望通りの物をすぐに持ってこないとクビにされる始末。家臣たちは毎日のように姫が望むものを探して走り回っているのだと、涙ながらに語っていた。


 そして、今回の要望は特に無理難題であり、カラトリーと骨の模様のネックレスを持って来いという意味の分からないものだった。男が首にかけているネックレスはまさにその通りのデザインであったため、家臣は泣いて喜んだのである。


 男は家臣にネックレスを渡した。お金は要らないというと、家臣は何度も頭を下げて「これでクビにされずに済みます!」と言って大喜びで去っていたのだった。



 最後にやってきたのは、なんとエルフの青年だった。男のはめている指輪を見てどうか譲って欲しいと懇願してきたのだ。


 その指輪は人間には何の価値もないが、エルフにとっては大きな価値のある指輪なのだという。


 男はしつこく付いて来るエルフの青年に、なぜそこまでこの指輪を欲しがるのだと理由を知りたがった。曰く、この指輪があれば植物の育成をうながすことができ、芽が出たばかりの木でさえ一晩で大木へと成長するという。


 男は譲ってくれるまで付いて行くという強情なエルフに呆れ、指輪を渡した。すると、エルフの青年は静かに涙を流して「これで枯れ果てた故郷の森を、元の美しい姿に戻すことができる」と言って森の中へ消えていった。



 どの星も男にとって必要のないものであったため、見返りも求めずに渡した。捨てることも出来ないガラクタをようやく厄介払い出来たとも思っていた。


 ここで分かることは、男にとってガラクタ同然でも泣くほど欲しがる人間がいるということである。


 だが、男はそれが分かっても命を懸けてまで他人のために星を手に入れようとは思わなかった。なぜなら男は心の底から欲している、とある物を求めて長く旅をしていたからである。


 そうは言っても見えるものは嫌でも目に入ってしまう。


 特に、必死になって探し物をしている人や人生に行き詰って死にそうになっている者を見ると、いつぞやで見かけた輝く星が彼らにとって泣くほど欲した物だったかも知れないと思い、少し罪悪感を覚えるのだった。


 そんな男を上手く利用する者は現れるもので、どこからか男の噂を聞いた人物が男へ近づいてきた。そして、男がいままで見つけた星の場所をメモして去って行ったのである。


 その人物は人を使って星々を手に入れると、それらを泣いて欲しがる者に大金を要求した。そうしてその人物は大金持ちになったのだった。


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