1)泥の中に咲く花
なぜか悪人ばかり生まれる恐ろしい家系があった。
その家系の子どもはことごとく悪に手を染めるため、呪われた家系だと言われた。
環境のせいではない。かつて、その家系を知らずして生まれた赤ん坊を拾い育てた夫婦がいた。その夫婦は裕福で愛に溢れ、最上級の環境を子どもに与えた。しかし、それでも子どもは悪の道へ走ったという。
なにが彼らの心を突き動かすのか。彼らは望む望まぬ関係なしになぜか必ず悪人となるのだ。
しかし、そんな悪に汚染された家系から美しい花が生まれることがあった。その花は定期的に生まれ、人々を魅了した。
花は美しい容姿を持ち、人格者であり、悪の道に走らないという強い意志を持っていた。そのため、花と呼ばれた者だけは呪われた家系出身にもかかわらず誰一人として犯罪を犯すことが無かった。
花は多くの人を惹き付けたが特に異性から非常にモテて仕方がなく、誰もが突き動かされるように花を欲しがった。その様はまさに喉の渇きを潤すためにたった一杯の水を奪い合う人々のようで、その美しい水が泥から湧き出たものという事実は人々の頭から消えていた。
そんな中、見事に花の心を射止めた者はみな心の中でこう思った。
「花との間に産まれる子どもは、絶対に悪人にはならないだろう。これほど素晴らしい人との子が悪の道へ走るなど誰も、神様ですら想像できないに違いない」と。
そんな希望を抱き、渋る花を説得して子どもを欲しがったのである。
花は10代後半には家を出て縁を切っていることが多い。さらに自身の家系を心底嫌っているためかほとんどの花は子孫を残したくないと考えている。
それ故に性行為を嫌って回避し、恋人も作らず独り身でいる花も多かったのである。それでも周囲の人々は花を放っておくことは出来ず、花も情に深いため少しでも好意を持っている相手から懇願されると無下に断ることも出来なかった。
相手に自身の家系を打ち明け、それでもいいと相手が言えば仕方なく一緒になった。そしてたくさんの子どもが生まれた。
だが、みな例外なく悪人になった。
花が生まれるのは、呪われた家系を途絶えさせないためではないか。そんな噂が流れるようになる。
実際のところ、悪人になった者たちはほとんどが社会における必要悪になっており、裏社会の重鎮になっていたりする。自分が悪にならなければより強大な悪が誕生してしまう。そんな使命感にも似たものを彼らは背負っており、底にある信念は共通して正義に似ている。
支配しなければ混沌がやってくる。悪を押さえつけるためにはさらなる大きな悪が必要だ。そんな風に考えているのだ。
しかし、彼らはそんなことを口にすることは一切ないため誰も知らない。
花はそんな家族の奥底にあるものに薄々気付いており、なぜそんな役割を自身の家系が背負う必要があるのか、理解出来ず複雑な気持ちを抱いている。
そんな不思議な家系の話。