プロポーズ
この物語はフィクションです、実在の人物や団体とは関係ありません
「」で囲まれた箇所は口に出した言葉、
『』で囲まれた箇所は心に思った言葉、になります
カインは宿屋に戻ってきた。部屋は二部屋を取っている。男女で同じ部屋というわけにいかないからだった。カインはアーレンの部屋へ向かう。
当初、カインはアーレンに指輪を渡して喜ばすだけのつもりだった。しかし今は違う。カインはアーレンにプロポーズしようとしていた。
「アーレンさんいますか、カインです」
カインは部屋の外から扉越しにアーレンへ声をかける。
「ポーションの納品が終わったんだな」
アーレンは笑顔で部屋の扉を開けた。
「話があるので中に入ってもいいですか?」
カインの真剣な表情を見て、笑顔だったアーレンも真剣な表情になる。
「分かった、入ってくれ」
アーレンはカインを部屋の中に入れた。
部屋の中にいるのはカインとアーレンの二人だけである。
「話というのは…どんな話だ?」
アーレンが話を切り出した。心做しかアーレンの表情は寂しそうである。
「アーレンさんの事が好きです、これからもずっと一緒にいたいです」
「結婚して下さい」
カインのプロポーズを聞いてアーレンは喜ぶような驚くような表情を見せた。しかし再び寂しそうな表情に戻る。
しばらくの時が経ったようにカインは感じた。アーレンは俯いている。
「…私はズルい女だ」
アーレンが口を開く。カインはアーレンがズルいなんて思った事がない。
「カインの事を考えず、今のままカインと一緒にいたいと思っていた」
そう言ってアーレンは服を脱ぎ始めた。
「えっ、いや、そんなまだ…」
カインは動揺している。
『見たい!…けどまだ見ちゃダメだ、見ていいのかな、いやダメだ』
カインはアーレンの裸を見てしまわないように自分の目を手で覆った。悩みながら必死に我慢している。
「見てくれ」
「いや、でも…」
アーレンの言葉を聞いてもカインは我慢した。
「一度、水辺で見ただろう?」
アーレンの声の調子が変わる。優しく諭すような声だった。
「見てません」
「いや、見てしまったけどハッキリとは見てません」
カインは我慢を続ける。
「だから…ハッキリと見てくれ…」
またアーレンの声の調子が変わった。アーレンの切なく願うような声を聞いて、ようやくカインは目を開く。
アーレンの体は古傷だらけだった。
「傷だらけだろう?全てカインと出会う前に負った傷だ」
「何の色気もない…」
アーレンが呟く。腹部には目立つ大きな古傷があった。そこにアーレンは手を添える。
「魔物討伐の最中に私はこの傷を負った」
「生死の境を彷徨ったが何とか死なずにすんだ」
「しかし、子を産めない体になった」
どんな気持ちでアーレンが告白しているのか、男のカインには分かると言えない。
「冒険者になる事を選んだのは私自身、だから受け入れなければならない」
「しかしカインは違う」
「私なんかを選ぶ義務はない」
アーレンが何を言いたいのかカインにも分かった。ただカインは聞き入れたくない。
「僕に選ぶ権利はないんですか?」
「素敵な女性を選ぶ権利がある」
「つまりアーレンさんを選ぶ権利があるという事ですよね」
一瞬、アーレンは言葉に詰まる。
「聞き分けのない事を言うな!」
『私だって辛いんだ…』
アーレンは声を荒げた。しかしカインは負けない。
「僕は女性が…アーレンさんが子どもを産む道具だなんて思ってない!」
「僕はアーレンさんと一緒にいたい!」
「今までも一緒にいたけど…これからも一緒にいると約束したい!」
駄々をこねる子のようにカインは自身の想いをアーレンへぶつける。アーレンの目から涙が溢れた。
「きっとカインも子が欲しくなる…」
「子どもに拘るなら親のいない子どもを引き取りましょう!」
「私は可愛くない…」
「その代わり美しいです!」
「私を過大評価しないでくれ…」
「正当な評価しかした覚えがありません!」
アーレンの言う事にカインはいちいち言い返す。そしてアーレンは何も言えなくなった。
再び、しばらくの時が経つ。
「本当に私でいいのか?」
「本当にアーレンさんがいいんです!」
再びカインはアーレンに言い返す。
『似たようなやりとり前にも…あっ』
アーレンは仲間に誘われた時の事を思い出す。あの時からカインの気持ちは変わらない、ただ深くなっていく。
「カインは意外と頑固なんだな」
「アーレンさんに折れてもらえると助かります」
カインの言葉でアーレンは泣き止み笑顔になった。
「頑固な夫を持って私は苦労しそうだ」
「!」
アーレンの言葉にカインは反応する。
「しかし私は性別を隠している、だから公には出来ないぞ?」
「構いません!」
「いつか金を貯めて冒険者を引退した時、正式に結婚しよう」
「はい!」
言うが早いかカインはアーレンを抱きしめた。