レストラン
この物語はフィクションです、実在の人物や団体とは関係ありません
「」で囲まれた箇所は口に出した言葉、
『』で囲まれた箇所は心に思った言葉、になります
カインは魔導書屋での事を思い出している。
『シンディさんは僕がアーレンさんを好きなのがバレバレって言ってたな…』
『もちろん好きだけど…恋愛の意味でだよな?』
カインは恋愛の感情が何なのか分からない。アーレンへの気持ちが何なのか分からない。
カインとアーレンは夕食を摂る為にレストランに来ていた。普段のレストランは冒険者ばかりである。しかし珍しくオリビアとカリルの夫妻も来ていた。
「よぅ、お二人さん」
「お二人も来ていたんですね」
「折角だから一緒に食べないか?」
オリビアに誘われ、カインとアーレンは顔を見合わせて頷く。
「はい、ご一緒します」
四人は一緒に食事する事になった。
四人はそれぞれ料理と飲み物を注文する。オリビアは酒を注文した。
「なんだ、二人も飲まないのか」
「アーレンは飲みそうだと思ったんだけどな」
オリビアは酒好きである。アーレンは酒に酔って失敗してしまわないように飲まない事を決めていた。カリルは酒が飲めない。カインは飲んだ事がない。飲み物は料理よりも先に運ばれてくる。四人は乾杯した。
「あまり飲み過ぎないでね」
そう言いながらカリルは愛おしそうにオリビアを見つめている。
アーレンはオリビアの左手薬指にカリルと揃いの指輪を見つけた。
「お揃いなんですね」
「あぁ、指輪の事か」
「結婚している証として作ったんだ」
アーレンに言われ、オリビアは自身の指輪を見ながら答える。オリビアとカリルは見つめ合った。
「アーレンは指輪とか着けないのか?」
オリビアがアーレンに聞く。横でカインが聞き耳を立てていた。
「私には似合いませんから…」
「そんな事はないと思います!」
カインはアーレンの言葉を否定する。大きな声を出してしまったのでカインはアーレンを驚かせてしまった。
「…ありがとう」
「でも指輪を着けていたら女みたいだしな」
アーレンは女である事を隠している。そういう理由ならばカインからは何も言えない。
「そんな事ないだろう…なぁ」
「指輪ぐらい男でも着けますよ」
オリビアの言葉にカリルは自身の指輪を見せながら同意する。カインは安堵した。
「着けるとしたらどんなデザインの指輪がいいんだ?」
オリビアがアーレンに好きな指輪のデザインを聞く。カインが聞きたかった事を代わりに聞いてくれた。
「私は剣士なので剣を握る邪魔にならなければいいなと思います」
「それはそうだろうけど…他には?」
オリビアに聞かれてアーレンは考えている。アーレンは冒険者になってから自分が指輪を着けるなんて考えていなかった。
「私は翼を広げて自由に大空を飛ぶ鳥が好きです」
「鳥とか翼をモチーフにした指輪がいいなと思います」
アーレンは好きな指輪のデザインを答える。
『よし!』
カインはアーレンの好きな指輪のデザインを知る事が出来た。オリビアとカリルのおかげである。好みを聞いてカインは少しアーレンの事を知れた気がして嬉しかった。
オリビアとカリルは仲が良い。カインは二人の事が気になった。
「二人はどんな風に知り合ったんですか?」
カインはオリビアとカリルに聞く。
「僕は冒険者をしていました、冒険者になる事は誰でも出来ますから」
カリルが話し始めた。確かに誰でも冒険者になる事は出来る。ギルドは冒険者名とジョブだけを問う。そして確認はしない。
「そんな中、鍛冶場でオリビアの仕事姿を見て惚れました」
カリルの話を聞きながらオリビアは顔を赤くしている。酒の所為ではない。
「最初は鍛冶仕事に憧れている、と思って弟子入りしました」
「でも、しばらくしてオリビアに惚れているんだと気付いたんです」
「どうして惚れていると気付いたんですか?」
カインはカリルに聞いた。
「オリビアの仕事姿が輝いて見えました、もちろん今でも輝いています」
「それから…一緒にいて楽しい、喜ばれると嬉しい、と気付いたんです」
カリルの話を聞いてカインにも心当たりがある。アーレンは美しい。つまり輝いている。アーレンと一緒にいて楽しい。アーレンに喜ばれると嬉しい。
「あと…オリビアが無理していると心配になります」
「それで僕はオリビアに惚れていると気付いたんです」
カインもアーレンがドーラゴニスに踏み潰されそうになった時は冷静でいられなかった。
「それで…どうしたんですか?」
更にカインはカリルに聞く。
「イチかバチかでプロポーズしました」
カリルの言葉でカインの時が止まった。
「私はもう結構な年齢だったし、何を言っているんだと思ったよ」
オリビアが話を引き継ぐ。
「昔から鍛冶は好きだが家事は好きになれなくてな…」
「家は散らかっていたし、飯はランガに作らせていた」
「それを知ったら逃げると思ってたんだが「家事は僕がする」と言い出した」
「私が鍛冶場にいる時の店番もしてくれる」
「さっきカリルが「無理していると心配」と言っていたが…」
「以前、仕事をし過ぎて鍛冶場で倒れた事がある」
「そしたら「体を壊したら鍛冶も出来なくなる!」と叱られた」
「もう…ね、プロポーズを受けて結婚するしかないじゃないか」
オリビアは結婚までの経緯を説明した。カリルは恥ずかしそうな顔をしている。
注文の料理が運ばれてきた。四人は料理を食べる。
「カリルは私に不満がないのか?」
オリビアはカリルに聞いた。
「不満…オリビアにじゃないけど店と鍛冶場が離れているから…」
「鍛冶仕事をしているオリビアの姿を見られない事かな、仕方がないけど」
カリルの不満は惚気である。惚気るキッカケを作ってしまったオリビアは恥ずかしさで顔を逸らす。
「そういえば何で店と鍛冶場は離れているんですか?」
アーレンが聞いた。
「あぁ、それは…」
「鍛冶場は五月蝿くなるから近所迷惑を考えて町の外れに作らなきゃいけない」
「そして店は人通りの多い所に作らなきゃ客が来ないだろうって事さ」
「なるほど…色々考えなきゃいけないんですね」
オリビアの話にアーレンは感心している。
「まぁ、死んだ師匠に教わっただけなんだけどね」
「土地も師匠から受け継いでるし…」
「その時点で離れてたから離れてるだけってのが真実さ」
オリビアは付け加えた。オリビアが多くの事を師匠から受け継いだ事が分かる。
四人は料理を食べ終えてレストランを後にした。
「アーレンの好みを聞き出せたから指輪は作り始めるぞ」
オリビアがカインの耳元で囁く。カインは頷いた。オリビアとカリルは防具屋へ、カインとアーレンは宿屋へ、それぞれ帰っていく。