魔導書屋
この物語はフィクションです、実在の人物や団体とは関係ありません
「」で囲まれた箇所は口に出した言葉、
『』で囲まれた箇所は心に思った言葉、になります
町の魔導書屋にはハロルがいる。町に滞在していて会いに行かないのも不自然だった。それ以上にカインはハロルと話がしたい。
「下手な事を言ったらアーレンさんが女性だとバレますよね」
「そうだな」
アレーンが女だとバレないようにカインとアーレンは口裏を合わせていた。
『すまないカイン、私の為に…』
秘密にしなければいけない事をアーレンは気にしている。
カインとアーレンは魔導書屋でハロルと話していた。
「幻惑を使う魔人か…怖いな」
「魔導書屋に出来る事はサネティの載った魔導書を入荷しておくぐらいか…」
幻惑を使う魔人は厄介である。ハロルも気にしている。
「…でもやっぱり魔法持ちは凄いよ、魔竜まで倒しちまうんだから」
話を聞いてハロルは感心していた。
「いえ、アーレンさんがいてくれたからです」
「太刀筋は見事だし、幻惑無効だし、…死にそうなところを助けられました」
「確かに…頼りになる前衛の存在は安心感がハンパネェもんな」
同じ魔法使いのハロルはカインに賛同する。
「止めて下さい、私のほうこそカインに助けられ守られてばかりです」
「カイン…」
「私はカインを守るだけです」
アーレンは「カインなら一人でも戦える」と言いかけて止めた。同じ失敗はしない。
ハロルは視線を奥に向けて再びこちらへ向ける。
「二人は結婚とか考えてないのか?」
ハロルから突然の質問をされた。
「えっ、あっ、いや…」
カインは咄嗟に答えられない。
「き、気付いていたんですか!」
アーレンは大きな声を出した。ハロルは困惑して何かを考えている。
「気付くって…」
「…もしかしてアーレンさんは女性なんですか?」
「!」
アーレンはハロルの言葉で自分のミスに気が付いた。
「結婚はそれぞれって意味だったんだけど…」
「アーレンさんは女性なんですね」
反応を見てハロルはアーレンが女であると確信する。
「他の人には言わないで下さい」
アーレンは諦めたように言った。
「言わないさ、人の秘密を言い触らしても得がない」
「むしろ信用を失うから損をする」
ハロルはアーレンに約束する。
『ハロルさんだから良かったけど…次はどうなるんだろう?』
カインは心配になった。今回はバレた原因が自分達のミスだからである。
「もしアーレンさんが女性だと世間に知られたら…どうなるんでしょう?」
カインは疑問を吐き出した。
「二人の関係性を知っていれば二人にも事情があると思うだろうな」
「二人の関係性を知らなければカインが無理に冒険者をさせてると思うだろうな」
「私は自分の意思で冒険者をしています!」
アーレンは思わずハロルに反論する。
「こっちまで声が聞こえてきたけど…どうかしたの?」
奥からシンディが子を抱いて出てきた。
「すみません、大きな声を出してしまって…」
「別にいいけど…ハロルに余計な事を言われた?」
「悪気はないと思うから許してあげてね」
「いえ、ハロルさんは悪くないんです」
アーレンの言葉でシンディはニコリと笑う。
「じゃあ、痴話ゲンカ?ケンカするほど仲がいいって言うもんね」
「…えっ?」
シンディの言葉にカインとアーレンだけでなくハロルも驚きの声を出した。
「えっ?…私、何か変な事を言っちゃった?」
「痴話っていうのは…」
「だって二人は付き合ってるんでしょ?仲いいもんね」
シンディはカインとアーレンが付き合っていると思っている。しかし、カインとアーレンは一緒に依頼を受ける冒険者仲間のつもりだった。
「気付いてたのか?」
「うん?」
「だってカインくんがアーレンさんを好きなのはバレバレだし…」
「アーレンさんも嫌そうじゃないから…」
「もしかして隠してたの?」
ハロルに聞かれてシンディは淡々と答える。逆に何が分からないのか分からないといった様子である。
「いや、アーレンさんが女性だって事に気付いてたのか?」
「えっ?…そっか、そういう事になるよね」
ハロルは言葉を失った。
ハロルは何かを考えている。
「さっきカインはアーレンさんの凄さを語っていたけど…」
「女性という事はスキルがないよな、スキルがないのに冒険者が出来るのか?」
ハロルが疑問を口にした。女もスキルを持っている事は知られていない。ハロルが疑問を持つ事も不自然ではない。
「あっ、アーレンさん冒険者だったっけ」
そしてシンディは冒険者であるかどうかを気にしていなかった。
「さっき言っていたのは隠す為の嘘じゃないですよ、本当なんです」
「いやでも…」
ハロルは信じられないという様子である。
「実は…女もスキルを持っているんです」
「試用室を借りますね」
アーレンは試用室に入り、ハロルとシンディに自分の太刀筋を見せた。
「…凄いな、魔法使いの俺でも分かる」
ハロルはアーレンの太刀筋に感心している。技術的な事が分からなくても伝わった。
「私にもスキルがあるのかなぁ」
「あるんだろうなぁ」
ハロルとシンディは納得している。それを見てカインは自慢気である。
カインとアーレンは魔導書屋を後にした。
『アーレンさんの秘密がバレちゃったな…気を付けないと』
『でも分かってくれる人って意外と多いのかもな』
今回は自分達のミスで秘密がバレている。しかしカインは気持ちが軽くなっていた。