魔導師への報告
この物語はフィクションです、実在の人物や団体とは関係ありません
「」で囲まれた箇所は口に出した言葉、
『』で囲まれた箇所は心に思った言葉、になります
報告したい相手がもう一人いる。カインとアーレンは城下町に来ていた。
「土産を買うんだよな」
アーレンもアルダを訪ねるのが二度目である。恐らく土産を持っていかなくてもアルダは話をしてくれると思われた。喜ぶと思って持っていくだけである。
カインとアーレンは買った土産を持ってアルダの家に来た。
「アルダさん、いらっしゃいますか」
「何か用ですか?」
家の扉が開いてアルダが現れる。
「おぉ、カインとアーレンか、また来てくれたんだな」
アルダは喜んだ。喜ばれてカインとアーレンも嬉しい。
「これ土産です」
「いつもすまんな」
「さぁさぁ中に入ってくれ」
アルダはカインとアーレンを家に招き入れた。
アルダは茶を淹れる。そして三人はイスに座った。
「それで今日は…」『結婚の報告かな?』
アルダはカインとアーレンを交互に見ている。
「この前に話した件なんですけど、解決しました」
「魔法について教えてもらったおかげです」
カインはアルダに報告した。
「それで来てくれたのか」『結婚報告じゃなくて残念…』「…いや、ありがとう」
アルダは勝手に残念がりながら喜んでいる。
「強い相手と言っていたが…どんな相手だったんだ?」
アルダに聞かれてカインとアーレンは魔竜の討伐について話した。
「なんて無茶を!だが解決したのか…」
アルダは驚きを隠せない。
「どんな魔法を創造したんだ?」
アルダはカインの創造した魔法を聞く。魔竜を倒すに至る魔法がアルダには分からない。
「先ずですね…自動の盾を創造しました、オート・シールドです」
「自動の盾?」
「自動で盾を出現させて攻撃を防ぐんです、防ぐだけじゃなくて…」
「攻撃で生じた魔竜の隙を突く事が出来たらと思って創造しました」
カインは自動盾の魔法をアルダに説明した。
「自動盾…地味に強力な魔法だ」
「いや、そこじゃない…自動の魔法なんて魔力の消費が大きいはずだ」
「普通の魔法使いなら一回の発動で魔力切れを起こすだろう…」
「しかしカインは「先ず」と言っていたな、どれだけの魔法が使えるんだ」
「…カインは一体何者なんだ」
アルダは興奮してカインを問い質す。
「えっと…」
「自動全回復、鎧、自動盾、盾包囲、水壁、千雷、…の魔法を使いました」
「それと僕は魔法持ちらしいです、回復魔法の魔法持ち」
カインはアルダの質問に淡々と答えた。カインは驚かれる事に慣れている。そして自分の力が大したものだと思っていない。
「魔法持ち…か、桁違いの魔力量だと聞いた事がある」
『カインが魔法持ちだったとはな…』
『…魔法の創造を知った魔法持ちなら竜に勝てても不思議じゃない』
アルダは納得した。
『自動全回復の魔法…自動なだけでなく全回復なんてデタラメ過ぎる』
『強靭を持っている者に使えば不死身になってしまうじゃないか』
『鎧の魔法は知っている、というか儂の作った魔導書に載っている』
『自動盾の魔法は説明された』
『盾包囲?』「盾包囲というのはどんな魔法なんだ?」
アルダはカインに質問する。
「竜が巨大でアーレンさんの剣が届かないな、と思ったんです」
「なので足場になる盾で包囲する魔法を創造しました、シールド・シージです」
カインはアルダの質問に答えた。
「結果的に魔竜が動く時の邪魔にもなって一石二鳥でした」
カインは盾包囲の効果を付け加える。カイン自身も想像した時に期待していなかった効果だった。
「アルダさんに見せてもらった火魔法を参考にしたんですよ」
『あれは想像のバリエーションを見せる為の魔法だったんだがな…』
「それは良かった」
アルダが見せた魔法の想像は思いもよらない形でカインの役に立っている。
「でも魔法の創造って上手くいくばかりじゃないんですよね」
「上手くいかない事のほうが多いです」
カインは正直に話した。
「でも楽しいんだろう?顔が笑っているぞ」
「バレちゃいましたか…はい、楽しいです」
アルダもカインも好奇心と探求心が強くて試行錯誤の好きな人間である。
自動盾と盾包囲の魔法には共通点があった。
『自動盾は汎用性もあるが…どちらもアーレンの為の魔法だな』
アルダは共通点に気付く。
「私はカインに助けられてばかりです」
アーレンが口を開いた。
「攻撃は盾で防いでもらって、防げなかったとしても鎧を着せてもらっている」
「もし傷を負っても自動で全回復してもらうし、毒も治してもらう」
「私が攻撃し易いように足場を用意してもらって、相手の動きも邪魔してもらう」
アーレンの言っている事は間違っていない。
「私はカインの足手まといになっていた気がします」
アーレンは俯きながら自分の気持ちを吐露した。
「えっ、いや、そんな事は…」
カインは狼狽えている。
「魔竜は二人で倒したんだろう?アーレンの力も必要だったんじゃないのか?」
アルダはアーレンに指摘した。
「その気になればカイン一人でも魔竜を倒せたと思います」
「実際、カインが幾千もの凄まじい雷を落とし続けて魔竜を動けなくしたんです」
アーレンは顔を上げてアルダに言い返す。カインは黙っていられなくなった。
「でも最初は僕の雷が竜に効かなかったんです!」
「アーレンさんが剣で鱗を斬り裂いてくれたから魔竜に雷が効いたんです!」
カインがアーレンに言い返す。
「きっとカインなら私がいなくても魔法の想像で何とか出来たはずだ!」
更にアーレンがカインに言い返した。
『何これ…ケンカ?』「まぁ二人とも落ち着いて…」
「アーレン、魔法使いは魔物の攻撃を受けて即死したりするんだ」
アルダに言われて、アーレンはカインがドーラゴニスに踏み潰されそうになった時の事を思い出す。
「だから魔法使いにとって前衛の存在は何よりありがたい」
「前衛がいてくれるから安心して魔法を使える」
「その意味でアーレンがいたからカインは力を発揮できたんだ」
「カインにとってアーレンは足手まといなんかじゃない」
「分かってやってくれ」
アーレンはアルダの言葉を黙って聞いた。そしてしばらく考える。
「分かりました…」
「カインに助けられる代わりに私はカインを守ります」
「取り乱してすみませんでした」
「僕はアーレンさんを守ります」
思わずアーレンはカインのほうを見た。しかし何も言わずに向き直す。
「あっ、僕も取り乱してすみませんでした」
カインとアーレンはそれぞれ決意を述べて落ち着いた。
『魔法持ちであるカインの傍にいれば劣等感を感じるのも仕方がない』
『気をしっかり持つんだ、アーレン』
『カインにとってアーレンの存在が大事なのは間違いない』
アルダは心の中でアーレンを励ます。カインがいるので口には出せない。
カインとアーレンは報告を終えた。長居は申し訳ない。カインとアーレンはアルダの家を後にした。