竜の復活
この物語はフィクションです、実在の人物や団体とは関係ありません
「」で囲まれた箇所は口に出した言葉、
『』で囲まれた箇所は心に思った言葉、になります
どうしていいかカインとアーレンは分からない。しばらくして魔竜の体にあった黒い鱗が剥がれ落ちた。額の剥がれた箇所から魔石が排出される。
「竜の中から魔石…魔人だけが魔石になったという事でしょうか?」
「魔人は同化なんて言っていたが…」
「寄生して竜の体を乗っ取っていただけなんだろう」
竜自体は魔物でなかった。カインとアーレンが倒したのは魔人である。
竜が目を開けた。しかし竜の目は虚ろである。
「人よ…我を倒したのは…お前達か…」
竜は問う。問う声は弱々しい。竜も魔人に操られていた。カインとアーレンは申し訳なさを感じている。
「…はい」
カインとアーレンは竜に答えた。
「気にする…必要はない…二人は…悪くない…」
「生き恥を…晒さずに…すんだ…」
「礼を言う…」
竜はカインとアーレンを恨んでいない。それどころか礼を言われた。
「我ながら…情けない…怒りに…呑まれて…魔人ごときに…」
「思えば…人間達も…操られて…」
「気付きもせず…悪い事をした…」
竜は悔いている。犠牲が多すぎた。しかし、諸悪の根源は魔人である。
「我の…命も…直に…尽きる…」
竜に言われてカインとアーレンは顔を見合わせた。そして、直ぐにカインは竜へ回復魔法を発動させる。竜は全快した。
「なんだと!」
「あれ程の状態だったのに全快した…」
竜は驚いている。
「僕は全回復の回復魔法が使えるんです」
カインは自分の魔法を竜に説明した。
「回復量に上限がないとは…」
「しかも我と戦ったばかりで平然と…」
「なるほど、我を倒せたのも頷ける」
竜は納得している。
「名乗るのが遅れた、我の名はドーラゴニス」
「僕の名はカインです」
「私の名はアーレンです」
ドーラゴニスとカインとアーレンはそれぞれの名を名乗った。
ドーラゴニスは何かを思案している。
「我は命も救われた」
「アーレン、カイン、改めて礼を言おう」
礼を言うとドーラゴニスは顎を上げて首をカインとアーレンに差し出した。
「他とは異なる鱗があるだろう?」
「礼の品として受け取ってくれ」
ドーラゴニスの顎の下には一枚だけ逆さに生えた鱗がある。その鱗は光り輝いていた。
『受け取れって鱗を剥げって事だよな』
『人間で例えると…綺麗な爪を礼の品として剥ぎ取る』
『いやいやいやいや…無理だよ、申し訳ないよ、出来ないよ』
「そんな、礼だなんて…頂けません」
カインは断る。鱗を剥ぎたくない。アーレンも同じ気持ちである。
「そう言わないでくれ」
「二人に助けられて、礼をしなければ我の気が済まない」
ドーラゴニスに言われてカインとアーレンは考えた。
二人は麓の村について思い出す。
「ドーラゴニスさんはこの山の麓にある村をご存じですか?」
「麓の村…あぁ知っている」
ドーラゴニスも麓の村を知っている。話が早い。
「最近、あの村を襲う魔物が増えたんです」
「防御壁を張っているんですが、防御壁も絶対ではありません」
「礼として、あの村を見守ってあげてくれませんか?」
カインとアーレンはドーラゴニスに村の見守りを頼んだ。見守る事を礼とすれば鱗を剥ぐ必要がなくなる。
「それならば問題ない、魔物が増えたのは我が冒険者達に襲われていたからだ」
「!」
ドーラゴニスから魔物の増えた理由が明かされ、カインとアーレンは驚く。
「もともと我は幻惑耐性を持っていた」
「しかし一度操られた事で耐性から無効に変化した」
「もう幻惑で操られる事もない」
「冒険者が操られていても正気に戻せる」
「魔物の数も落ち着くはずだ」
もう麓の村をドーラゴニスに頼む必要がなくなった。
「麓の村は二人が言うなら特に注意して見守っておこう…」
「しかし、二人への礼は別だ」
ドーラゴニスの意思は固い。
カインは観念して輝く鱗を剥がした。
『鱗が剥がれて痛いだろうな…』
カインは再びドーラゴニスを回復させる。
「別に構わないというのに…優しいのだな」
ドーラゴニスは呟いた。
「その鱗は逆鱗と呼ばれている、売れば相当に高い値が付くだろう」
「売らなくても身に着けていれば恐らく良い事がある」
ドーラゴニスが逆鱗について説明する。
『逆鱗か、高価な物を頂く事になってしまったな…やっぱり申し訳ない』
『というか頂いた物を売ったり出来ないよ』
カインとアーレンは恐縮していた。売る事なんて考えていない。
「身に着けるのならば大きさは関係がない、二つに割って二人で持てばいい」
ドーラゴニスから貰った逆鱗と魔人の魔石を持ってカインとアーレンは山を下りた。