魔竜の討伐
この物語はフィクションです、実在の人物や団体とは関係ありません
「」で囲まれた箇所は口に出した言葉、
『』で囲まれた箇所は心に思った言葉、になります
カインとアーレンは山道を進む。もうすぐ竜との対峙から一ヶ月が経つので、いつ魔竜が目覚めるか分からない。
「グゥオァー!」
叫び声が轟いた。魔竜の叫び声である。カインとアーレンは急いで竜の住処へ向かう。
カインとアーレンは竜の住処で魔竜の姿を目にした。竜の目には光がない。竜の額には黒い魔人の半身があり、魔人から全身へ伸びるように鱗が黒く変色している。
「素晴らしい…想像以上の力だ」
「この力が今日からは私の力だ!!!」
魔人は竜の力を手に入れた。魔人は昂っている。
「…ダメです、幻惑で操られているわけじゃないみたいです」
カインは幻惑を治そうと試みた。しかしサネティが通じない。
「カイン、鎧を頼む」
アーレンに言われ、カインは回復魔法と防御魔法を発動させた。アーレンは外套を脱ぐ。もう竜の住処に竜はいない。そこにいるのは魔竜だった。
魔法の発動で魔竜はカインとアーレンの存在に気付く。
「おぉ、お前達はあの時の冒険者か」
「素直に逃げておけばいいものを…馬鹿な奴らだ」
「まぁ…逃げていても少し長生き出来るだけだがな」
そう言いながら魔人の半身は竜の額の中に消えていき、大きな鱗に覆われた。魔人の声は徐々に魔竜の声に変わっていく。
魔竜の目に光が宿った。
「早速だが、死ね」
魔竜が襲いかかる。アーレンが立ち向かった。魔竜の攻撃は強烈である。しかしアーレンは攻撃を躱して当たらない。
「躱す事しか出来ないのか?」
魔竜が煽るとアーレンは立ち止まった。
「馬鹿め」
魔竜の攻撃がアーレンを捉える。するとアーレンの前に盾が現れた。
「何だ!?」
突然と現れた盾に魔竜は驚く。攻撃で盾は砕かれた。しかし攻撃がアーレンに届かない。
「攻撃を受けると自動で盾が現れる、オート・シールドだ」
『呪文を詠唱してたら間に合わない、だから自動化した』
『不意打ちだって防げる』
盾はカインの創造した新しい魔法だった。そして魔竜の視界からアーレンが消える。
「どこだ!?」
「ここだ」
声とともにアーレンは魔竜の硬い鱗を斬り裂いていた。
「グァー!」
「そんな…どうして…竜の鱗を…」
魔竜は戸惑っている。
「人を甘く見過ぎていたな」
アーレンは魔竜に言い放った。ランガとオリビアが作った剣は魔竜にも通じる。
『よし!新しい剣なら魔竜の鱗も斬れる』
『アーレンさんとなら…アーレンさんと僕で魔竜を何とかしてみせる』
カインは闘志を燃やした。
鱗を斬られた魔竜は警戒している。
「ブォー」
魔竜は生暖かい霧の息を吐いた。
「これは猛毒の霧、霧なら盾で防げないだろう」
「止まない苦痛を味わえ!」
魔竜が攻撃方法を変える。しかしカインもアーレンも平然としていた。
「何で平然としている…」
「無駄です、僕達に毒は効きません」『生暖かい毒霧は気持ち悪いけど』
カインが魔竜に言い放つ。
「何だと?」
魔竜は訳が分からず困惑した。
魔竜は気持ちを切り替える。更に作戦を変える事にした。
「な、なるほど…私は人を誤解していた、これ程とは思わなかった」
「素晴らしい力だ、これからは共に歩んでいこうじゃないか」
「先ずは剣を納めて魔法を解除してくれ」
魔竜は停戦を求めている。
「断る、剣を納めるつもりはない」
「僕もお断りします、魔法の解除なんて出来ません」
「もしかして…僕達を幻惑で操ろうとしてましたか?」
「!」
実際に魔竜は幻惑でカインとアーレンと操ろうとしていた。図星である。
「どうせ隙をついて攻撃するつもりだったんでしょ、無駄ですよ」
「毒も幻惑も含めて自動で全回復する回復魔法を僕達は発動させてます」
カインの回復魔法は進化していた。魔竜の毒も幻惑も効かない。
魔竜は身構えている。
『今度は僕達の攻める番だ』
「我に従う守の精霊…」
「我が魔力を糧として彼へ盾の包囲を与えよ、シールド・シージ」
カインの魔法で無数の盾が魔竜を包囲した。
「なんだこの盾は…何がしたいんだ…」
魔竜は困惑している。
「グァー!!!」
魔竜を包囲する盾を足場にしてアーレンは魔竜の全身を斬り裂いた。盾によってアーレンは巨大な魔竜の周りを自由に動く。アーレンの剣が届かない場所はない。
「これが狙いだったのか…小賢しい」
「グゥオァー!」
魔竜が暴れる。暴れて盾が砕けても新たな盾が現れて魔竜の包囲は崩れない。盾によって魔竜は自由に動けない。
「くそ、何なんだ」
「砕いても砕いても次から次へと…邪魔な盾だ」
魔竜の動きは鈍っている。魔竜の攻撃はアーレンに当たらず、アーレンの攻撃だけが魔竜を斬り裂いた。一方的である。
「何故だ、お前は竜の鱗に傷を付けられなかったはずだ」
「この一ヶ月で竜の鱗も斬り裂ける剣を手に入れた」
「力を手に入れたのはお前だけじゃないんだ」
アーレンが魔竜に言い放つ。もはや魔竜の鱗は意味を成していない。魔竜の鱗はアーレンの剣でズタズタである。
魔竜は劣勢に立った。しかしカインとアーレンを睨み、怒気を緩めない。
「まだだ、まだだ、まだだ!」
「お前達は所詮、鱗を斬ったにすぎない!」
「私は決定的なダメージを負っていない!」
「ブォー」
魔竜は猛烈な炎を吐いた。
「我に従う水の精霊…」
「我が魔力を糧として我へ水の壁を与えよ、ウォータ・ウォール」
地面から分厚い水の壁が噴き出す。水壁の噴出は炎の息を消し切るまで続いた。カインが創造した魔法である。
『炎の息を防げる壁の創造…上手くいった』
カインの魔法で前回は防ぎ切れなかった炎の息を今回は防ぎ切れた。
「竜の…力で…勝てない…だと…」
魔竜には打つ手がない。心が折れた。
魔竜を包囲していた盾が消える。
「我に従う雷の精霊…」
「我が魔力を糧として彼へ千の雷を与えよ、サウザンド・サンダ」
「ギィャー」
カインの魔法で幾千もの雷が魔竜に落ちた。一つ一つの雷が今までの高位の雷に勝る威力である。魔竜の叫び声が辺りに響き渡った。
「鱗を斬っただけで決定的なダメージがないと言っていたけど…」
「硬い鱗は鎧のようなものだった」
「鎧が無くなったから決定的なダメージを受けるようになったんだ」
カインの魔法だけで魔竜に決定的なダメージを与えたわけではない。カインとアーレンの共同作業である。
決定的なダメージを負った魔竜はその場に崩れ落ちて動かなくなった。しかし、魔竜は魔石にならない。
「魔物は魔石になるはずなのに…魔石になりませんね」
「魔竜は魔物ではないのでしょうか?」
「…それとも魔竜は特殊?」
カインに問われてアーレンは何かに気付く。アーレンは魔竜の額に剣を突き立てた。最初に魔人の半身があった場所である。
「どうしたんですか?」
「いや、もしかしたらと思ってな…違ったか」
カインに聞かれてアーレンは剣を抜いた。