防具屋
この物語はフィクションです、実在の人物や団体とは関係ありません
「」で囲まれた箇所は口に出した言葉、
『』で囲まれた箇所は心に思った言葉、になります
防具屋は武器屋の隣にある。ある事だけはカインも知っていた。しかし防具屋に入った事がない。
「いらっしゃい」
気の良さそうな女に出迎えられた。防具屋の店主である。
「あんたは女だね」
店主はアーレンが女である事を見抜いてしまった。いきなりである。カインとアーレンは動揺して言葉が出ない。
「気にしなくても私も女だよ」
防具屋の店主が女である事と冒険者が女である事は意味が違う。
「秘密にして下さい」
「気にするんだね、分かった言わないよ」
店主はアーレンに約束した。
「それで何が欲しいんだい?私は鍛冶師だから鎧もオーダーメイドで作れるよ」
「いえ、私達はランガさんに言われて来ました」
「鎧は僕が魔法で具現化しています」
ここに来た経緯をカインとアーレンは店主に説明する。
「なるほど…弟にね」
「私はオリビア、ランガの姉よ」
「私はアーレンです」
「僕はカインです」
三人は名乗りあった。オリビアとランガは姉弟で鍛冶師という事になる。
「弟もアーレンが女だと分かったから私のところに来させたんだろう」
「同じ女だからね」
「女同士、悩みがあれば相談に来るといい」
「ありがとうございます」
アーレンにオリビアという相談相手が出来た。
『悩みの相談なら僕にしてほしい…けど同性のほうがいい事もあるんだろうな』
カインは少し寂しい。が仕方ないと理解している。
カインは店内に目を向けた。色々な防具がある。カインは盾や鎧に詳しくない。魔法の鎧もアーレンが最初に着ていた鎧を参考にしていた。
『これ…金属の輪を繋げて体の形にしているのか』
鎧の形状にも色々ある。店にはカインが知らない形状の鎧が置かれていた。
『こっちは金属じゃないな、何かの皮?かな』
鎧の素材にも色々ある。置かれた鎧がカインの好奇心を刺激した。
「興味があるかい?」
オリビアはカインに声をかける。
「色々あるんですね、面白いです」
「そうか面白いか、鎧は形状や素材で防御力だけじゃなくて動き易さが変わる」
「戦闘のスタイルなんかも考えて選ばないといけないんだ」
好奇心を刺激されたカインにとってオリビアの話は興味深い。
「そうだ、魔法の鎧というのを見せてくれ」
そう言うとオリビアは一旦店を出てから戻ってきた。
「店を閉めた、これで外套が脱げるだろう?」
オリビアに言われてアーレンは外套を脱ぐ。
「我に従う守の精霊…」
「我が魔力を糧として彼へ鎧を与えよ、アーマ」
カインが具現化した魔法の鎧をオリビアはじっと見つめる。
「なかなかの鎧だが改良の余地がありそうだ」
そう言うとオリビアは店に置いてある鎧を持ってきた。
「ここの関節はこの形状のほうが防御力が高い、そして動きも妨げない」
「なるほど…」
オリビアの提案にカインは感心する。カインは魔法の鎧を解除した。
「アーレンさん、失礼します」
「えっ、ちょっ、あっ」
カインは実際に触れながらアーレンの関節を確認する。アーレンの体は柔らかい。カインは真剣である。アーレンは恥ずかしい。一旦驚いた後、オリビアは二人の様子を見ながらニヤニヤしている。
「我が魔力を糧として彼へ鎧を与えよ、アーマ」
アーレンの関節を確認してからカインは再び魔法の鎧を具現化させた。
「…素材は金属だけなのか?」
「えっ?」
「そっか、やってみます」
魔法はカインの想像次第である。素材を変えられれば工夫の余地を広げられた。
「我が魔力を糧として彼へ鎧を与えよ、アーマ」
…
「我が魔力を糧として彼へ鎧を与えよ、アーマ」
…
「我が魔力を糧として彼へ鎧を与えよ、アーマ」
…
カインはオリビアの助言を受けながら何度も魔法の鎧を想像し直して改良する。
『まるで私は着せ替え人形だな…』
『でも、仕方ない』
そして魔法の鎧はアーレンにとって最良の鎧に改良された。アーレンにとって大事な事は女に見えなくて動き易い事である。その上で防御力が高ければ申し分ない。
「今までの鎧も動き難いわけではなかったが、この鎧は格段に動き易い」
「オリビアさん、ありがとうございます」
「カインもありがとう」
アーレンは二人それぞれに礼を言った。オリビアは満足そうにしている。カインは満面の笑みだった。
防具は他にもある。
「アーレンは盾を使わないのか?」
「動きの邪魔にならないように使っていません」
オリビアに聞かれてアーレンは答えた。
「そうか…盾にも色々あるぞ?」
オリビアが言う通り、店には色々な盾が置かれている。
「大型でどんな攻撃も防ぐ為の盾、まぁこれはアーレン向きじゃないな」
「小型で攻撃を往なす為に使う盾、武器と一体になった盾、色々ある」
オリビアは色々な盾を紹介した。
「そうなんですね…」
アーレンは紹介された盾を手に取り思案している。
「魔法の盾もありますよ」
「えっ?」
「…防具屋の商売敵は魔法使いか」
カインが口を挟むとオリビアは悔しがった。使わないと思われていた盾の魔法にも可能性がある。