魔導師の試用室
この物語はフィクションです、実在の人物や団体とは関係ありません
「」で囲まれた箇所は口に出した言葉、
『』で囲まれた箇所は心に思った言葉、になります
アルダとともに奥の部屋に入ると試用室があった。
「個人の家に試用室があるんだ…いいなぁ」
カインは呟く。カインの横でアーレンも感心している。
「呪文の詠唱と現象に注意して見ていてほしい」
アルダは棚から魔導書を手に取りながらカインに伝えた。アルダが試用室に入る。
「先ずは何も考えずに呪文を詠唱する」
「我に従う火の精霊…」
「我が魔力を糧として彼へ火を与えよ、ファイア」
アルダが呪文を詠唱すると的の近くで火が現れて消えた。ファイアであろうと思われるが普段のファイアとは違う。やはり魔法の想像は大事である。
「次は魔法を想像しながら呪文を詠唱する」
「我が魔力を糧として彼へ火を与えよ、ファイア」
アルダが呪文を詠唱すると火が現れて的に当たった。これは普通のファイアである。
「我が魔力を糧として彼へ火を与えよ、ファイア」
アルダが呪文を詠唱すると的が丸い火檻で囲まれた。これはファイア・ケージと呼ばれるはずである。呪文と現象が違う。更に普通の火檻は四角い。
「我が魔力を糧として彼へ火を与えよ、ファイア」
アルダが呪文を詠唱すると的の周りを複数の小さな火が取り囲んだ。これは見た事がない魔法である。
「魔法が変わるって、そういう意味なんですか」
「こういう意味だ」
驚くカインにアルダは答えた。
アルダは魔導書を棚に戻す。
「ファイアは火を与える魔法…」
「威力、形状、どんな火かは魔法使いの想像次第で変わる」
「全ての火魔法はファイアとして発動できる」
「…というよりも、もともとファイアだ」
「有用な想像に名前と呪文を決めて、別の火魔法として派生させる」
アルダは実技に言葉を足して「魔法が変わる」の意味を説明した。
「普段から魔法を細かく変化させて、その時の状況に対応しているだろう?」
「その延長と考えればいい」
アルダは補足する。確かに状況で同じ魔法を細かく変えて使っていた。
「ちなみに試用室の防御壁は発動する時に誰の想像も読み取っていない」
「そして現象が単純なのに使われている呪文は複雑で長い」
つまりアルダの話は魔法の想像が呪文の簡略化もしているという事である。
「僕もやってみていいですか!」
カインは好奇心が抑えられない。
「もちろんだ」
アルダに許可を取ってカインは試用室に入った。
「我に従う火の精霊…」
「我が魔力を糧として彼へ火を与えよ、ファイア」
先ずカインは何も考えずに呪文を詠唱する。
「我が魔力を糧として彼へ火を与えよ、ファイア」
「我が魔力を糧として彼へ火を与えよ、ファイア」
「我が魔力を糧として彼へ火を与えよ、ファイア」
次にカインはアルダを真似た。そして思案する。
「我が魔力を糧として彼へ火を与えよ、ファイア」
…
カインはアルダと異なる火を想像し始めた。カイン独自の想像である。
「それでいい」
「大事なのは真似る事じゃなくて、考えて実践して自分のものにする事だ」
アルダはカインを見守った。しばらくして再びカインは思案する。
「我に従う水の精霊…」
「我が魔力を糧として彼へ水を与えよ、ウォータ」
「我が魔力を糧として彼へ水を与えよ、ウォータ」
「我が魔力を糧として彼へ水を与えよ、ウォータ」
「我が魔力を糧として彼へ水を与えよ、ウォータ」
「我が魔力を糧として彼へ水を与えよ、ウォータ」
…
水魔法でカインは同様の事を行った。
「そうだ、もちろん火魔法だけじゃない…いや、水魔法も?」
「待ってくれ、カイン」
「えっ、あっはい」
カインは魔導書を開かず腕輪で水魔法を使っている。以前、アルダと会った時には腕輪で火魔法しか使っていなかった。
「水魔法も腕輪なのか?」
「はい」
「もしかして…水の精霊にも会った?」
「はい、前にアルダさんと会った後にウォータンド国で水の精霊と会いました」
水の精霊に会ったと話すカインを見てアルダは呆然としている。アルダの後ろでアーレンは気まずそうにしていた。
アルダは我に返って口を開く。
「詠唱付与で一つの魔法道具が呼び出せるようになる精霊は一種類だ」
「恐らくカインの腕輪は二つの魔法道具が一つになっている」
「…貴重な物だから大切にな」
「分かりました」『そうか、貴重なんだ…』
『嵩張らなくて便利としか思ってなかった』
アルダに助言されてカインは精霊から与えられた腕輪が貴重だと知った。
「魔法使いなら言うまでもない事だが…魔力切れには気を付けろよ」
「強力な魔法は想像できたとしても多くの魔力を必要とする」
「魔物との戦闘中に魔力切れで動けなくなるのは危険だからな」
「魔法そのものだけじゃなく、魔法の使い方も想像しなければいけない」
アルダはカインに注意する。
『動けなくなるのは困るなぁ、アーレンさんに迷惑をかける』
「気を付けます」
アーレンのほうをチラリと見てからカインはアルダに答えた。
『でも魔力が切れた事ないから…どのくらい使うと魔力が切れるか分かんないな』
答えたがカインにはピンと来ていない。
「儂に教えられる事はこれぐらいだ」
「あとはカインの想像で魔法を創造すればいい」
「ありがとうございました」
カインはアルダから魔法について教わった。ここから先はカイン次第である。
「無理はするなよ」
「ありがとうございます、でも頑張ってみます」
カインとアーレンはアルダの家を後にした。