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桧垣が続けて、
「きょうは早く来すぎてしまって、6番ホームのベンチで本を読んでたんですけど――ふと顔を上げたら、ホームにいた人たちがみんないなくなってたんです。他のホームにも誰もいなくて。
さっきまで通勤通学の人たちが各ホームにいたんですよ。おかしいですよね――おまけに朝なのに辺りは夕方みたいに夕焼けで真っ赤に染まってるし、いったい何が起こったんだろうって? って――」
「それで他のホームを確認しに行ってたってわけね」
そう言う美香子に桧垣はうなずいた。
「で、やっぱりほかのホームも同じように変だったと?」
次いで問う花織に再びうなずいたが、ためらいながら首を横に振り直した。
「ん? どっち?」
「誰もいない、つまり変というのは同じなんですけど、6番ホームみたいに辺りが真っ赤じゃなくて、今度は夜明け前みたいな、もしくは日が暮れた後みたいな感じで暗いんです。
もうわけわからないです」
「まさかこれって――信じられないけど、さっき花織が話してた地下通路の呪いってやつ? ウソでしょ。電車通学初でこんなことある? 逆に腹立ってきた」
オカルト話は嫌いじゃないが、実体験となると話は別、大迷惑だ。
美香子は地団太を踏んだ。
「まあまあ」
今度は花織が美香子を宥めた。
「ねえ、花織、これってどうなるの? ちゃんと元に戻れるの? ピアス男はなんて言ってたの?」
「こ、こんなふうになるなんて話は聞いてない」
花織が困惑している。
「えっ? あれだけ地下通路を語ってたピアス男も知らないってこと? それって、元の世界に戻れた人がいないっていうことなんじゃない?」
「ちょっと待って。何か知らないか、ピアス男に訊いてみる。電話に出るかどうかわかんないけど――」
花織が肩に掛けたバッグからスマホを取り出し、操作する。数十秒の後、首を横に振った。
「だめだ。変なノイズが聞こえるばっかで繋がらない」
「え? もしかして風の音みたいな?」
「そう」
「がりがりって引っ掻いてるみたいな?」
「そう」
「わたしと一緒だ――も一回わたしもかけてみるわ」
美香子は再び母親に電話をかけてみたが、結果は花織と同じだった。
「また後でやってみる」
肩を落として美香子はポケットにスマホを仕舞い、花織もうなずいてスマホを仕舞った。
「あの――わたしも一緒にいてもいいですか?」
桧垣がおずおずと訊ねる。
「もちろんだよ」
美香子の返事に桧垣が微笑んだ。
「けど――これからどうする?」
そう言いながら花織が大きな溜息をついた。
「とりあえず、他に誰かいないか捜してみよっか」
「そだね。他に巻き込まれたやつがいるかもしれないし――」
「おーい」
花織の言葉に被さるように奥から大きな声が響いてきた。美香子たち三人は「ひっ」と飛び上がった。