4-1
美香子たちはとにかく6番ホームまで行くために歩を進めた。
「足踏みしてるだけでさ、このまま前に進めないってことないよね?」
花織の言葉に、
「怖いこと言わないでよ」
美香子はバッグを両腕に抱えた。
だが、不安をよそに『4/5』の標示板の前までなんなく進めた。
その時、ブレザーのポケットが震え、美香子は「きゃっ」と飛び上がった。
「な、なに?」
「で、電話みたい。ママかな?」
立ち止まってスマホを取り出し、画面を確認する。
「やっぱりママだ。もしもしっ」
美香子は急いで出てみたが、風の吹き荒ぶような音が聞こえるばかりで母の声はしない。
「もしもし? もしもし? なにこれ?」
なおも聞き続けたが、がりがりと引っ掻くような耳障りな音が聞こえ、ぞっとした美香子は思わず電話を切ってしまった。
「どしたん? おばさんは?」
「うーん、確かにママからなんだけど、へんな音ばかり鳴ってて返事がないから気持ち悪くて切っちゃった。
いっぺん、こっちからかけてみるよ――」
「あのぉ――」
突然、同じ紺のブレザーを着た少女が『4/5』の昇降口から現れた。
「うわっ、びっくりしたっ」
花織が大げさ過ぎるくらい仰け反る。
「驚かせてすみません――あのぉD組の魚住さんですよね」
清楚なその少女が美香子に微笑みながら近づく。
「そ、そうだけど――」
「なによっ、あんたっ」
花織がずいっと美香子と少女の間に割り込んで睨みつけた。
「ちょっ、こんな状況なのに、けんか腰にならなくても――」
慌てて美香子は鼻息荒い花織の肩を押さえた。
少女が頭を下げる。
「す、すみません――わたし桧垣といいます。2年A組の桧垣玉青――」
「ああん? A組? そんなエリートさんがうちらに何の用?」
ますます花織の鼻息が荒くなる。進学クラスのA組の連中は高飛車で腹が立つといつもグチっているので、話しかけてくることすら気に入らないのだろう。
「ご――ごめんなさい――あの――さっきからここの様子が変なので――つい、心細くて声をかけてしまいました」
「ま、確かに変だけど――」
現状を思い出した花織が改めて地下通路を見廻し、
「ところでさ、A組のあんたがなんで美香子のこと知ってんの?」
その質問に美香子もうんうんとうなずく。
「わたし、二か月前に転校してきたんですけど、校内で迷子になった時、魚住さんに助けていただいたんです」
「そんなことあったの?」
花織にそう訊かれて、美香子は「あったような、なかったような――」と首を傾げた。
「職員室がわからなくてうろうろきょろきょろしてたら、魚住さんが声をかけてくれて連れて行ってくれたんです」
「え~~あったっけ、そんなこと? ごめんね、全然覚えてなくて」
小声で「いえいえ」と桧垣が微笑む。
「で、ここで何してたの?」
花織が『4/5』を指さす。
「わたし、初めは6番ホームにいたんです。でも様子がおかしいって気づいて、各ホームを確かめに行っていたんです」
美香子と花織は顔を見合わせた。
戸惑いと少しの恐怖が花織の表情に滲み出ている。きっと自分も同じ表情をしているに違いないと美香子は思った。