3-1
実家に向かう間にも結子は何度か車を止め、娘のスマホに連絡を試みてみたが、ひどいノイズの入る呼び出し音が鳴るばかりで美香子が出ることはなかった。
連絡をあきらめて老両親のもとへと走り、一時間後ようやく実家に到着した。
「ただいま。お母ちゃん。お父ちゃんの具合どう?」
靴を脱いで上がり框に足を駆けた結子のもとに奥から母の輝子が慌てて出てくる。
「ゆ、結子、大変や」
「な、なに? お父さんどうかしたの?」
「お父さんやない。Q駅やっ」
「Q駅?」
さっき美香子を送った駅を頭に思い浮かべ、リビングに向かう。
「早う、こっち来てっニュース見て」
久雄は腰を庇うようにしてソファにもたれ、テレビに見入っている。
「お父ちゃん、腰大丈夫?」
バッグをテーブルの上に置いて尋ねる結子の腕を母親が引っ張った。
「たいそうに言うてるだけやっ、腰なんてたいしたことなかったんよ。それより早う、見て」
促されてテレビを見ると、さっきまでいた駅が映し出されていた。たくさん止まっている緊急車両の回転灯が緊迫感を表している。
身体の芯から何かがすとんと足元に落ちた気がした。
「な、なにがあったん?」
「地下通路が崩落したんやって。今朝、うちが呼んだかい美香子ちゃん電車で行く言うとったやろ。まさか巻き込まれてないわな?」
そう言いながらエプロンの裾を握りしめ「お父ちゃんが腰なんかいわすから――美香子ちゃんになんかあったらうちらのせいや」と深皺に囲まれた目から溢れる涙を拭う。
「そんなん言うててもしゃあない。はよ美香子に連絡取ってみ」
テレビから視線を外さず久雄が結子に指示する。
「それがさっきから何度も電話してるけど出ないんよ」
久雄と輝子が二人同時に結子を見た。