10-2
「大丈夫かな?」
美香子の不安に花織はにこっと微笑んだ。
「信じてれば大丈夫っ! 何しろここ異界なんだから。いい方向にも力が働くよ、きっと」
「そうだねっ」
花織を巻き込んで申しわけなく思っていたが、一人だと前向きにはなれなかったかもしれない。一緒にいれてよかったと美香子は心から思った。
二人の姿が消えるとすぐ内田が『4/5』から下りて来た。
途端に美香子は薄気味悪くなった。
誰かいなくなると誰か来る。
あと何人集まるのかわからないが、一度に全員集合できないのだろうか。
「ああ怖かったよ、魚住。さっきこのホームで線路に黒い何かが這ってたんだ。人の形をしていたけど人じゃなかった」
内田が下りてきた右昇降口を指さし、陽気な声でハハハと笑った。
こんな状況でよく笑えるな、と半ば呆れながら美香子は花織の顔を見た。同じことを思っているのか、花織は眉をしかめ、今にも嫌味が飛び出しそうな口元をしている。
「ああっ、やっと人を見つけたっ」
突然、6番から大声がして、女子生徒が下りてきた。
「新井さん?」
美香子はクラスメイトの名を呼んだ。
「魚住さん? よかったぁ」
新井あさ美が美香子の腕に抱きついた。
「気づいたら、こんななっててぇ――なにこれ? 世界の終わりぃ?」
「ったく、のんきに世界の終わりぃ? じゃないわよ」
花織は新井も嫌っている。何をするにも「ちょっと待ってぇ」が口癖で、どんくさいのがイライラするのだという。
「あ、由利さんもいたんだぁ」
「こいつ、なんかムカつくな」
「まあまあ」
苦笑しながら美香子は内田の表情を窺った。
優秀過ぎる生徒を嫌うだけでなく、成績の悪い生徒も嫌う内田は、英語が絶望的な新井のことをひどく嫌っていた。突然現れた彼女を苦い表情で睨んでいる。
知ってか知らずか、新井は全く気にもしていない。花織や内田だけではなく、クラスメート全員からほぼ相手にされていない新井だが、なかなかメンタルが強い。そこにも花織は腹が立つらしい。
「人はそれぞれだし、わたしは良いと思うけど」
毎回そう庇う美香子に、
「内田だけじゃなくて新井も庇うの? ほんとにあんたは――」
花織はそうため息をつく。
そういうところが美香子の弱みになるのだと心配してくれていることはわかっていた。人の優しさに付け込む連中はごまんといるから。
「ちっ、もう一度見回りに行ってくるよ」
内田が『4/5』の、さっきとは反対の左昇降口に向かう。
「先生、もう離れないほうが良いんじゃないですか?」
好き嫌いはともかく安全を考えて止めているのだが、内田は嬉しそうな笑顔で振り返って、
「魚住のそばにいてやりたいんだけど――やっぱり僕は立場上できるだけのことをしないと――」
そう言って階段を駆け上がっていった。




