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*不快な描写があるかもしれないので閲覧注意です。

  

  

「じゃママ、行ってきます」

 助手席から降りた美香子が笑顔を覗かせ、運転席に座る結子に軽く手を振った。

 平日のQ駅前(えきまえ)の朝は混雑しているイメージを持っていたが、玄関前の車寄せには結子の車以外、客を降ろしているタクシーが一台あるだけだ。

「行ってらっしゃい。きょうはごめんね、学校まで送ってあげられなくて」

「いいの、いいの。たまには電車も面白そうだし」

「でも、乗ったことないでしょ。なんか心配だわ」

「だいじょうぶ。わたしもう高二だよ。確かに切符の買い方もわからないけど、花織も一緒に行ってくれるっていうし」

「え? 花織ちゃん電車通学だった?」

「ううん、自転車だよ。でもさっき花織に電話したら付き合ってくれるって」

「そう、花織ちゃんいい子ねぇ――でも――」

「もうママったら、自分も乘ったことないからって心配し過ぎ」

 ドアを閉めて駅のほうへ向かう娘を目で追っていると、チェックのスカートを翻しながら美香子が手を振った。

 それに応えようと手を上げかけたが、いつの間にか来ていた後続車にクラクションを鳴らされ、慌てて車寄せから離れた。

 大通りに出るためロータリーを回る。

 歩道を走っていた花織の駐輪場に入っていく姿が目に留まった。

「付き合ってくれてありがとうね」

 娘の良好な交友関係が嬉しく、独り言ちながら結子は大通りへと車を出した。


 自分の職場に近いからと、高校入学から二年生の今まで、毎日美香子を学校に送迎している結子だったが、今朝は実父――美香子にとって祖父――の久雄がぎっくり腰になったという連絡で欠勤することになり、それが叶わなくなった。

 夫に過保護だと笑われていたが、事件や事故に巻き込まれないためには、心配し過ぎるくらいがちょうどいいというのが結子の持論だ。

 目の前の信号が赤に変わり、ブレーキを踏む。ふと助手席の足元に落ちているピンクのポーチに気づいた。

「やだ。あの子ったら」

 青に変わった信号を進み、少し先で路肩に止まった結子はポーチを拾い上げてから、バッグから携帯電話を取り出した。

「今頃届けてももう間に合わないし――一応知らせとくだけでも――」

 結子はつぶやきながら、美香子の番号を押す。

 呼び出し音が鳴り始めたが、少し調子がおかしい。

「ん? 電波悪い?」

 結子は首をひねった。

 電話の向こうでは呼び出し音の奥に荒野で吹き荒ぶ風のような音と通話口をがりがり引っ掻く、やけに不快なノイズが混じっていた。


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