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15.取り調べ【ウェルナーク視点】

 昼になって実験が終わり、俺は審問庁へと向かった。ミーナも一旦自宅へ帰るようだが、ラーベがいるから退屈はしないだろう。


「……しかし指輪とはな」


 馬車に乗り、外の景色を見ながら俺は呟いた。左手薬指に指輪をつけるのは婚約の証であるが、フリージアにその知識がないのは明白だった。ミーナもほとんど間違いなく、大して気にもしていないだろうが。


 だが指輪を見て、魔力の発現に一喜一憂するフリージアからどうして目を離せなかったのだろうか?

 謝り続けるフリージアよりかは、よほど好ましかった……からだろう。色々なことに努力と目を輝かせているほうがずっといい。


 馬車が黒塗りの審問庁の塔の前に着く。直立不動の衛兵に目を向けるが、完全に俺には合わせない。男の中にも俺の瞳を怖がるものはいる。ため息をつきながら執務室に向かう。


 机の上の報告書に目を通す――主に昨日のオークションの案件だ。ただ、驚くような情報はない。様々な手掛かりはあれど、さほど進展はしないだろう。


「あとはやはりアルティラか……」


 彼女のことも報告書に記載されている。かなり騒いだようだが、貴人用の部屋に拘留中だ。ただ、実家のベルダ伯爵家からはすでに解放の要求が来ている。さらにエルドの署名で長期間の拘留は不可、と但し書きがされていた。


「取り調べをするより他にない、か」


 俺は憂鬱になりながらもアルティラへの取り調べに向かった。諸々の手続きを済ませ、塔を昇る。狭苦しい塔だが、フリージアが置かれた境遇に比べれば何のこともないだろう。


 扉を開けるとアルティラが能天気な声と仕草で迎えてくれた。


「まぁ、ウェルナーク様! 会いに来てくれたのですね!」

「……ああ、約束したからな」


 魔力が使えるアルティラを拘留部屋から出すことは得策ではない。とはいえ、この部屋にはテーブルも椅子もあるので、ここで取り調べを行える。


 しかし俺に気絶させられたはずなのに、アルティラの反応は何なのだろうか?

 自分の状況を理解しているとは思えない。


「いくつか、確認したいことがある」

「ええ、何でも聞いてください! そうすれば私が無実とわかるはずですから!」


 それからフリージアに聞いたこと、オークションの押収から得たこととの照合を行った。審問官の仕事は決して楽なものではない。

 だが、ここまで悪びれない悪というのも、そうそうないだろう。


「フリージアは伯爵家のゴミですのよ。教育が受けられないのは当然ですわ」

「あの女は頭が悪いから、折檻でもしないと覚えませんの」

「ちょっと顔がいいからって、あの女の子どもなだけあるわ」


 率直に言って、怒りを覚える。だが審問官に過度の私情は禁物だ。

 反論をしたい気持ちを抑えて俺は静かに問いかけた。


「つまり何も悪いことはしていない、と?」

「ええ、ここにいるのも――全部フリージアのせいです! 彼女はどこにいるんですか!? 私が無罪なのを証明してもらわないと……」

「もうフリージアの証言で君が解放される段階ではない」

「では、ウェルナーク様がなんとかしてください! こんなところ、もう1日だっていたくありません!」

「それは君次第だ。フリージアの今後について、ベルダ伯爵家で相応の補償等をするよう君から伝えるつもりはあるのか?」


 俺は半ば、アルティラの答えを予期していた。

 そしてそれは間違っていなかった。アルティラが机を叩いて怒り出す。


「なんですって……! そんなの嫌ですわ!」

「なぜだ? 被害者であるフリージアへの償いの意思があれば、君は有利になる……」

「どうして私たちが償わないといけないのですか!? こうなったのは、全部フリージアのせいなのに!」

「本気で言っているのか?」


 俺が冷ややかに言うと、アルティラが少しのけぞった。だが、これは自分が悪いと思ってのことではない。俺の脅しを怖がっただけだ。


「それと博士について知っているか?」

「――博士。何のことですか?」


 嘘だ。俺の瞳が直感的にアルティラを見抜いた。彼女は博士のことを知っている。


「もう情報はある。隠し立ては不利益だ」

「誰から聞いたんですか? まさか……それもフリージアから?」


 アルティラの顔が怒りと憎悪に染まっていく。だめだ。

 少しも冷静に会話ができない。俺はなんとか彼女をなだめようとする。


「情報提供については明かせない。君に罪を償う気持ちがあるのなら――」

「あのクズ! 恩を仇で返したのね!!」


 アルティラから黒い魔力が放射され、鞭となって机を叩き割ろうとした。俺はとっさに瞳に魔力を集中させ、アルティラを締め上げる。


「ぐっ、ううっ!」

「……やれやれだ。これでは取り調べにならないな」


 そのまま俺は紅い魔力でアルティラを締めつけ、昏倒させる。

 普通なら圧倒的な力でねじ伏せるのは心が痛むものだが、アルティラ相手には少しも罪悪感を覚えなかった。


「仕方ない、救護班を呼んでくるか……」


 俺は書類をまとめ、拘留部屋を出た。貴族令嬢を取り調べで昏倒させた、として俺の評判がまた下がるかもしれないが……構わない。

 アルティラに対する態度がベルダ伯爵家の総意なら、俺は抗い続ける。

 少なくともフリージアが真っ当に生きられるまでは。

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