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あの日見た空

作者: ある武士の末裔

 母の無理心中に巻き込まれそうになった時のことを思い出した。

こんな清々しい秋晴れの日なのに。

景色がいつもより美しく見えたからかもしれない。


幼かった私には、当時の母の苦しみを理解してあげられなかった。

何故 泣いているのか。

何故 手紙を書いているのか。

何故 ベランダに靴を揃えたのか。

何故 いつもは「危ないから登っては駄目よ。」と言っていたベランダの手摺りに、私を乗せたのか。


今なら母がこれから何をする気だったのか解る。

しかし、稚すぎた私には何も予想できなかった。

むしろ、普段なら見られないベランダからの景色を楽しんでいた。

オレンジ色に射し込む斜陽が、空の青さを撥ね付けるほど眩しかったのを覚えている。

肌に張り付く冷たい風も新鮮で、私はただ世界がこんなにも美しいのかと見惚れていた。

そんな私の傍らで、母が葛藤していることなど、微塵もわからなかった。


「寒いから、お部屋に戻ろ?」


景色にも見飽きた私が何となく言った一言で、母の無理心中は失敗に終わった。

この時のことを、母は10年も過ぎた後に語った。

本当に無理心中するつもりでいたんだと。

外の景色を見られただけで私があまりにも嬉しそうにしていたから、できなかったのだと。

病弱な子供だった私はまともに小学校すら通えず、診療費も払えず、職を失った父は逃げ出し、ひとり途方に暮れていた母。

あの時に諦めたからこそ、今の生活があるのだと。


生きてて、本当に良かった。


無理心中に失敗してから20年、母に真相を告げられて10年経った今になって、私は泣いた…。

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