アシュトレト編3
セリオンはスコルピオンが守っていた扉を開けた。中に入る。部屋の奥には玉座に座った主の姿があった。
女主人アシュトレトであった。
「来たか、我がもとまで。きさまらが我がもとまで来れるとは思わなかった。我が僕どもを倒してな。素直に敬意を表しよう」
「おまえがアシュトレトか?」
「そうだ。我が名はアシュトレト。悪魔の女王にして女主人アシュトレトだ」
「何が目的だ?」
「ふっ、知れたことを。この地上を支配することだ。地上を我ら悪魔が支配する―― 悪魔による地上の支配―― それこそが我が目的よ」
「それで罪もない一般市民を虐殺させたのか?」
「ふん、下賤な民衆は恐怖によって支配されるのだ。それで、おまえは何がしたいのだ?」
「悪を倒す。単純なことだ」
「なるほどな、おまえが善で私が悪か。確かに単純だ。しかし、愚かにもほどがある。この私に敵対し、あまつさえ倒す気とはな」
アシュトレトは玉座から立ち上がった。セリオンは大剣を構えた。
「愚民がつけあがるな! きさまらのような不良分子など我が力の前では無力であることを思い知らせてやろう! きさまも恐怖と絶望に屈するがいい!」
アシュトレトが叫んだ。
「俺がこうして立っている限り、希望はある! 俺はおまえを倒す!」
「身の程を知れ!」
アシュトレトは「杖」を召喚した。セリオンはアシュトレトに向かって大剣を振り下ろした。
アシュトレトは杖でガードした。セリオンは大剣を横に薙ぎ払った。アシュトレトは杖を縦に構えてそれを防いだ。アシュトレトが攻撃した。アシュトレトはしびれる打撃を込めて、セリオンを杖で打ち付けた。
「くっ!」
セリオンはこの一撃を大剣でガードしたものの、しびれまでは殺すことができなかった。
セリオンはアシュトレトと距離を取る。
「すべてを包み込む闇よ! 我が前に姿を現せ!」
アシュトレトが魔法を唱える。すると、セリオンを中心に黒い闇が球状となって現れた。
セリオンは闇に飲み込まれる。
「ぐう!?」
「さあ、すべてを闇にゆだねるがいい!」
しかし、突然「闇」の球体から「光」が放射された。「光」は闇を打ち払った。
セリオンの大剣が光輝く。光輝く大剣は闇を斬り裂いた。
光の本質は「切断」である。一方闇の本質は「包含」である。
「!? ええい、忌々しい! なんと光は忌々しいことか!」
アシュトレトは驚愕した。
「光は闇を打ち払う!」
セリオンは光輝く大剣を握りしめ、輝く刃を二本放った。
「ぬうううう!?」
アシュトレトが杖でガードする。
「闇の門よ、いでよ!」
まるでブラックホールのような闇が出現した。強烈な吸引力を持っている。この闇はすべてを飲み込む――光以外は。
「光波刃!」
セリオンは光の斬撃を放った。闇の穴が斬り裂かれた。セリオンは光輝く大剣でアシュトレトを打ち付けた。
「ぐぬうう!?」
セリオンの攻撃がアシュトレトを圧倒した。アシュトレトは杖でセリオンの攻撃を防いだ。
「おのれ! 図に乗るな!」
アシュトレトは闇の魔力を収束し、杖の先端に「刃」を形成した。これで杖が槍となった。
「切り刻んでくれるわ!」
アシュトレトは杖の刃でセリオンを打撃した。セリオンは大剣で防いだ。
アシュトレトは闇の刃で連続突きを放った。セリオンは的確に払いのけた。
アシュトレトは闇の刃で斬りつけた。セリオンは大剣で杖を打ち払った。アシュトレトの杖が彼女の後方に落下する。ガランと杖は落ちた。
セリオンはアシュトレトの前に光の大剣を突きつけた。
「これまで、だな?」
「くうう!」
アシュトレトはうめき声を漏らす。しかも、その瞳には怒りの炎がともっていた。
「ここで終わりにするか、続けるか? どうする? おまえしだいだ」
セリオンは断固たる意思を突きつける。
「ふはははははは! ふっはははははは!」
「何がおかしい?」
「この私が降伏だと? まったく笑わせてくれる! これほどばからしいことがあるか!」
「………………」
セリオンは沈黙した。
「ネレウス Nereus !」
アシュトレトの体が闇の柱で照らされた。悪魔ネレウスの上半身がアシュトレトの上に現れる。
「!? 悪魔を憑依させたのか!?」
セリオンはとっさに後ろに跳んだ。
「これが私の本気だ。ネレウスとの憑依合体」
セリオンは驚いた。
「圧倒的な力の差を思い知らせてやろう!」
アシュトレトが右手を振るった。大きな闇のオーラが現れ、地走った。
オーラは壁に激突し、爆破した。
アシュトレトは左手を振るった。大きな闇のオーラの波がセリオンを襲った。
「くっ!?」
セリオンは右によけて回避した。
「デーモン・ブレス!」
ネレウスが大きく息を吸った。それから口から闇の息をセリオンにはきつけた。
セリオンは光の刃で可能な限りダメージを削減した。
「魔炎弾!」
アシュトレトの周囲に無数の玉が現れた。無数の玉が一斉にセリオンに襲いかかった。
「ぐっ!?」
セリオンは迎撃を試みたものの、あまりの玉数の多さに対応できず、くらってしまった。セリオンは倒れた。
「ふははははははは! 見たか! 我の圧倒的な力を! これが闇よ! この闇の力で光などかき消してくれる!」
セリオンの意識が闇に沈んでいく……ここで倒れるのか? ここまでなのか? これまでなのか?
そう自問する。アシュトレトの力は圧倒的だ。だが、それが何だ?
(私はセリオンを信じてる)
エスカローネ! 俺は、ここで倒れるわけにはいかない!
「さて、どうケリをつけてくれようか…… ん?」
セリオンは立ち上がった。
「はあ……はあ……はあ……」
そして、神剣サンダルフォンを改めて構える。
「ほう…… 立ち上がったか。だが、愚かな。そのまま寝ていたほうが幸せだったかもしれぬぞ?」
「俺は、自分一人のために戦っているんじゃない! 多くの人の希望のために戦っているんだ! だから、俺は倒れるわけにはいかない!」
「甘いのう…… 甘いわ! 自分以外の者のためだからなんだというのだ! 愚劣にもほどがある! 決定的な力の差は埋まりはせんぞ!」
「力だけがすべてじゃない!」
「力だ! 力こそがすべてを制するのだ!」
アシュトレトはそう叫ぶと、右手に魔力を集中させた。
「これで、終わりだ!」
「負けない!」
セリオンに巨大なレーザー砲が放射された。セリオンは全力でそのレーザーに光の大剣を叩きこんだ。
今度はセリオンが圧倒した。
「うぬう……!? こんなバカな!?」
「はあああああ!!」
セリオンは闇のレーザーを打ち破った。
「何、バカな!?」
「今だ!」
セリオンは驚愕するアシュトレトに対して、光の斬撃で斬りつけた。致命的な一撃だった。
「ぐはあ!?」
アシュトレト&ネレウスに最後の一撃が叩き込まれた。アシュトレト&ネレウスは死んだ。
かくして、アシュトレトの野望「地上の支配」は崩壊した。
スルト、アンシャル、セリオン、アリオンの四人はテンペルに無事帰還した。
帰還した四人をエスカローネが出迎えた。
「本当にみんなよく帰ってくれましたね」
エスカローネが言った。
「さてと、私はほかにやることがあるのでな。ここで、おいとまさせてもらおう」
そういうとスルトは歩いて行った。彼の背中を残された者たちが見つめる。
「私もやることがあるんだった。私も去らせてもらう」
アンシャルはほほ笑むと、一人去っていった。
「俺も、邪魔はしたくないからここは帰るよ」
アリオンも消えていった。
「セリオン……」
「エスカローネ……」
セリオンはエスカローネを抱きしめた。エスカローネの存在を感じ取る。
「エスカローネが俺のことを信じてくれた。だから、勝つことができた。ありがとう」
「ううん。今の私にはセリオンを信じることしかできないから…… ただそれだけなのよ」
「ユリオン…… ヘウネー……」
「え?」
「子供の名前だよ。男の子でも女の子でもいいように両方考えてきた」
「ユリオン、ヘウネー……とてもすてきな名前ね」