掛け布団の下で
* 短いです。
当時、そして晩年の青山像 by 砂臥環さま
―◇◇―
青山はいつものように寝間着の女に羽織をかけてやり胡坐を組んでいました。
「これでは貴方さまがお風邪を召されます」
梅雨冷えの夜でした、その日の祈祷希望者はふっと我に返ったように立ち上がると、神主のほうを見遣ります。ついさっきまで怯えて泣いていたのに。
青山は驚きを隠して黙って女のすることを見ています。その娘は近づいてきて神主の肩にふわりと羽織を掛けて寄越しました。神官が座っている横には思わせぶりに床が延べられています。
「座りなさい」青山の静かな声が響き、女はすぐ前に正座しました。
「恐くないのか?」と尋ねると女は、
「恐いですがお言葉は通じるみたいですわ」と微笑みました。
「嫌でなかったらもう少し近づきなさい」
すると手の届くところまでにじり寄ってきます。青山はその娘を腕の中に抱きかかえました。
「このほうが暖かい」
嫌がりも泣きもせずに腕の中にいる娘に対し神主は、妹がいたらこんなだろうか、などと感じていたのです。
「親には何と云われて来たのだ?」
「初めてをもらっていただきなさいと」
「それがどういうことか判っているか?」
「はい」
「貴女の意思は?」
「だからここに来ました」
青山は娘の頭の上でため息を吐いてしまいました。
「もし日本が日本でなくなっても、鬼畜米英が女性を蹂躙するとは限らない。肌の色、髪の色が違っても同じ人間だ。もちろん中には悪い男もいる。不埒な男もたくさんいるだろう。力ずくで貴女を奪う者もいるかもしれない。だがそれと私と何の違いがあるのだ? 好きでもない男にされる不幸は同じではないか?」
「神主さまとはこうやって心通わすことができます」
女は思いのほか明瞭に答えました。
「貴女は私には言葉が通じないと思っていただろう?」
「はい、ご乱心だと聞いておりました」
「アメリカ人もイギリス人も使う言葉が違うだけ、嫌なときはノーと言い続けなさい。言葉など違っても相手が嫌がっているかどうかわからないわけがない。外国人だろうが気狂いだろうが好きでもない男には嫌だと、ノーと云い続けなさい」
「私、神主さまなら、いいです……」
青山は柔らかく女を自分の胸から離しました。
「残念ながら私には最愛の妻がいる。妻以外を抱くことは実はうちの神社の教えに背くんだよ」
「ではなぜ両親は私にこんなことを?」
「貴女の幸せを願ってのことなんだろうが、好きな人以外には抱かれない努力をしなさいという私が、貴女を抱くわけにはいくまい?」
娘はクスリと笑います。
「ヘンな神主さま」
「変か? 私はやはり気が狂っているか?」
「全然」
「そこの掛け布団を取ってくれるか?」
「はい」
「ありがとう。おいで」
青山は女をまた腕の中において布団をかぶりました。
「眠りなさい。私も眠る。ご両親には掛け布団の下で一緒に寝たと報告しなさい。それで事足りる。将来好きな人ができたらとことん優しくしてもらうんだよ。ではおやすみ」