表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/16

止まらぬ戦慄

──がばりと起きると、スマホを探す。何度も取り落とす。早く! 早く! 多実子!




一秒でも早く、親友の声が聞きたい……。やっとの思いでスマホを掴むと、震える手でリダイヤルする。




『……ふぁぁぁぁ。おはよう。なんだい、早くから』




いつもの緊迫感のない声に安心する。が、しかし、現在明け方の4時。




「多実子! 多実子! 」




挨拶を返す余裕なんてなかった。ただただ名前を呼ぶ。涙が溢れて止まらない。




「……待ってろ、すぐいく」




オタクはインドア、出不精、引きこもりの印象が強く、好きなことでしか重い腰を上げないと思われがちだが、中にはかなりのアクティブ派もいるのだ。見た目では判断出来ない世の中になっている。イケメンで中身もイケメンでオシャレ、可愛くて中身も優しくて女子力も高い、そんな人たちも実際にいる。イメージだけで決めつけてはいけない。


多実子もまた、その部類なのだけど、古いアニメのように瓶底メガネですべてを覆い隠している。……実際、先天性の視力弱者ではある。間違ってもアニメの見すぎで視力を落としたわけではない。でも周りにそんな勘違いをされても気にしないし、ましてや訂正しないスタイルで、華麗に誤解され続けている。


そして、中身は可愛いではなく、……男前だった。




距離にして電車で15分ほど。高校で知り合った割には近い住まい。それでも、駅を5駅(1駅区間3分計算)ほど跨ぎ、更に駅から徒歩で約10分(1㎞くらい)。……その距離を彼女は、ものの5分でやってきた。流石に"オタクは運動うんち"なんて勘違いは少ないが、それにしても早い。




1区間平均2㎞としても5駅跨げば10㎞ほど。下車後、徒歩1分80m前後ペースでも10分近く歩けば約1㎞。合わせて自宅からの距離がある。大体見積もって30分前後を想定。


……それを5分。寝起き含めて5分。




愛車である『ホ◯ダC◯R1100XXスー◯ーブラッ◯バード』で飛ばしてきたのだ。全くもって想像斜め上を目指すヲタク女子高生である。誕生日は4月5日。大型バイク取得可能。謎の高額アルバイター。




……問題は、車体に張られたデカデカとした現在一熱い(多実子調べ)"アニメ"のステッカー。痛車ならぬ、『痛バイク』。全国のバイク愛乗者さんたちに大変失礼なヲタク娘だった。しかし、バイクにも拘りがあるから怖い。車体総額150万円。新品で70万円超えの高額高スペックバイクではあるが、交通規定内と除外部分で何か施したらしい。まさか、ステッカー発注価格……? 仲良しの同人作家さんからの特注品ではあったが。




確実に速度違反である。電車も起きぬ早朝なだけに、無法タイム。しかし腐っても都内近郊、監視カメラだって24時間稼働しているはず……。そこも抜かりはない。何せ、現代は衛星の立体地図がネット検索出来てしまう時代。親友宅までの最短最強ルートを綿密に調べていないわけがなかった……。




ライダースーツだけはノーマルの多実子が、私のSOSに駆けつけるまでの5分。布団にくるまり、ガタガタと震えていた。




「邪魔するよー」




答える気力のない私の返事は待たない。




「……そこは"邪魔するなら帰ってー"、でしょ? 」




いつもと変わらない多実子の新喜劇ネタに落ち着きを取り戻す。




「……相当な悪夢、だね? 」




ライダースーツの下は、制服。私の家からの方が、学校に近いためだろう。……何とか頷く。多実子は勝手知り足る我が家のようにキッチンに向かう。


……私は両親がいない。少し離れた場所に祖父母がいるけれど。


多実子は高校生生活を機に、一人暮らしを始めた。私を憐れむでもなく、一緒にいてくれる。




「……いっそのこと、同棲しちゃうかい? 」




「それはいや」




いつもの冗談だが、反射的に断った。




「だよねー」




アニメグッズ、ミュージカルグッズだらけの部屋に住む根性は流石にない。入りきらないほどに溢れていることを知っているから。




「……ほれ」




ホットミルクを2つ。私と多実子の分。




「さ、泣き腫らしてるところ悪いが、話しな。何を見た? 」




私は先ほど見た夢をポツリポツリと話した。


いつもとは違う、不快感。吐かなかっただけ良かったくらいの悪夢。"現実では絶対起こり得らない"のに、言い知れぬ戦慄と不安が消えない。




「サイコ、だわな。サイコサスペンス? サイコホラー? サイコミステリー? ……"まるでアリスの過去を再生"したようだねぇ。続きな上に回顧録まであるとは……しかし、不思議なのは"いつも傍にいるアリスがいないこと"だ。キナ臭いぞ、その夢たち。"ただの夢"じゃない、"意図した夢"の可能性が高いね……」




ずずっと、行儀悪くホットミルクを啜った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ