夢舞台『親友』
──私は次の講義に向かうべく、早足で移動していた。
「ああ! 何で居眠りしていのかしら! 」
「『エリス』! 早く! 」
講義のある教室から『親友のアリス』が顔をだし、私を呼ぶ。
「ええ! 」
更に歩みを早める。
──ふと視界を横切る人影。
あら? あの人、どこかで……。
思い出せない。でも……知っている気がした。
振り向いた先にいるのは、後ろ姿の男子生徒。
「エリス! 」
「ごめんなさい! 今いくわ! 」
後ろ髪を引かれる思いで先を急いだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「珍しいわね。エリスが居眠りなんて」
「もう、私もびっくり」
ひそひそと、先生に聞かれないように話す。
今までこんなことはなかったのに。
夜更かしもしていない。
春眠暁を覚えず、とは言うけれど、今はもう初夏だ。居眠りするには季節的におかしい。
疲れているのかしらと首を傾げる。
……そんな話をしながら、私の頭ではさっきの男子生徒がちらつく。彼は一体だれ?
◇◆◇◆◇◆◇◆
午後になり、苦手な数学の時間。
苦手な理由は明白だった。教師がほとんど不在で、自ら教科書で学ぶしかない。
この講義、アリスとは席が離れてしまっている。
「あら、エリスさん。こんな問題も出来ないの? 隣の『カイト』さんとおなじで、おつむまでダメなのかしら? 」
この時間だけは運悪く、鼻につく言葉ばかりを選ぶ『カリーナ』がこれ見よがしにつついてくる。
仲良しメンバーで楽しく問題解き。
隣のカイトはやる気がないのか、最初から放り出している。このままでは課題が終わらない。
「……あとでアリスに聞くわ」
「はっ、毎度毎度、アリスさんも災難だこと。こんな出来の悪い友人がいて」
私は別に、勉強が嫌いなわけじゃない。文系はかなり得意で、カリーナにだって負けない。……理数系だけは上手く立ち回れないのだ。だから、得意分野で天狗になっているカリーナが好きになれなかった。
アリスは何でも出来てしまうから、ある意味、親友でも劣等感を感じてしまう。
……だが、その日以降、カリーナが学園に来ることはなかった。
見覚えがある男子生徒、優等生な親友、突然消えた意地悪なクラスメイト。
私は帰り際に長い黒髪の女性を目撃していた。
嫌な感覚があった、その認識程度ではあったのだけれど──