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騒音と異臭



━━箱庭で、全く動かない夢なんてはじめてだった。



牛乳を煽りながらリモコンのスイッチを入れる。



『昨夜深夜未明、十数人の死傷者がでました。科捜検では、大型の肉食獣ではないかと言う見方をしていますが、"笑う黒い女"という目撃証言があるため、精査する見込みです』



『昼間はどうなんですか? 』



『そのような情報はないですね』



『現場の因幡さ~ん? 』




━━よくあるような物言いで、思わず聞き逃しそうになる。私はスマホを耳に当てた。




『やぁ! 今日はどうした? 怖い夢を見たかい? それとも……"今やっている、一聞では違和感のない"ニュースのことかな? 』




通話口から、似たような音声が流れていた。




「うん、そう……」




返事をした瞬間、ピピッっと着信。




「あ、lineだわ」




『ん? ああ、何か来てるね』




あまり使われない、クラスのlineグループ。担任の連絡帳代わりにしかならない。




『皆さん、おはようございます。急ではありますが、暫く学校はお休みになります。出来るだけ外には出ないようにしてください。今朝のニュースでどこの局もやっている、"真夜中の猟奇的事件"が皆さんの通学圏内であることが理由です。まだ昨夜のことしかわかりませんが、現時点では屋外が危険と職員会議で一致しました。皆さんも、やむを得ず外出し、出会してしまった場合、早急に家屋に避難してください。進展があるなしに関わらず、既読だけでもいいので、皆さんの無事を確認させてくださいね。』




そう言えば、lineでもグループ通話が出来るようになっていたから、先生たちもそれ使ったのかな。流石に通学だけじゃなく、通勤だって危ないよね。


……明日美先生、授業以外ではあんまり話さない人だけど……この文字選びは彼女自身が手打ちしたもの。話口調とおなじだった。校長先生や教頭先生だったら、もっと固いテンプレだったろうな。




━━ニュースに視線を戻すと、因幡さんらしきレポーターが、何もないところを移動しながら語っている。




『ここからが現場と見て、間違いないと思われます。この印された場所、いくつか点在していることがわかりますね。これ、すべて"スマートフォン"が."落ちていた"場所なんです』




映像のあちらこちらに、チョークの型どりが細かく見て取れる。




『……現代人の自由さは、時に常軌を逸してしまうものだね』




繋げたままでいた多美子の声がした。


ゾンビ対策で自宅を建立した芸能人夫婦など、過度に過敏になってしまう人がいる中で、逆にすべてを楽観視する人もいる。きっと何かの撮影と思ったか、面白半分で"なう"とかしようとしていたのだろう。




『スマートフォンの中には、"ピンぼけ写真"ばかりが立ち並ぶばかりで、決定的な画像は見当たらないとのことです』




映し出される映像は全て真っ黒で、レンズを塞いで撮ってもおなじレベルだ。また、因幡レポーターが歩みを進める。




『……ここが現場です。説明がいらないほどの……状態です。数時間経っているはずなんですが……ここには"噎せかえるような血の臭い"がします』




堪えきれないのか、因幡レポーターは鼻にハンカチを当てた。……そこはまだ数時間のために、現場維持を言い渡された場所。ロープやkeep outの向こう側だというのに……。一人一人ビニールシートを掛けられてはいるが、飛び散った血までは隠せないよう。全てのビニールシートがバラバラの方向をしていた。……血の範囲が、微かに直後の姿を彷彿させる。地面の血は乾いているが、ひどい出血だったのだろう。防水仕様であるビニールシートが滲んでいた。




◇◆◇◆◇◆◇◆




━━事件の犯人の行方。それは……。




朽ちた廃工場の二階に黒髪白磁の女性が倒れていた。完全に意識を失っているようだ。一時的に本来の姿になっているが、黒く乾燥した返り血はそのまま。


……気絶している理由、それは、音も臭いもない夢世界で生きてきた彼女に、現実世界の音や臭いが強烈だったからだ。


飛び出した瞬間の自分の笑い声に麻痺し、混乱しながら、朦朧としながら殺戮行為に及んだ。人間の気配が無くなるまで。


無くなった瞬間に自動車のフロントライトの灯りや響く音、排気の臭いと朝を告げる動物たちの鳴き声。そして、殺した人々から発する、生臭い噎せかえるような血の臭いを目の当たりにした。すべてに混乱し、叫び、その叫び声に更にひどい目眩を起こしながら、宛もなく走り続けた。


静かなこの場所に飛び込むや否や、倒れたのだ。

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