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夢舞台『彼女になりたくて』と甦る記憶

──綺麗な黒髪にセーラー服の、いかにも清楚系の女の子が桜の木を見上げていた。……足音が聞こえる。




私は期待を込めて振り返った。




──綺麗な女の子だ。




「あ、あの、君はこの手紙の? 」




優しそうな面差しの、眼鏡のよく似合うあなた。私、あなたを待っていたの。




──癖っ毛の学ランの大人びた少年が、少し息を切らせてそこに来た。




「はい、先輩。私……あなたが好きです、付き合ってくれませんか? 」




真っ赤になって戸惑う姿に微笑みを隠せない。


……あなたは"断れない"わ。もう……「私にはもう妻子がいるからごめん」なんて。だって、今の私たちは"学生"なのだから。




「えっと……、一年の……沢渡さわたり……みちるさんだっけ? "悪いけど"、僕は君をよく知らないから、いきなり付き合えない、かな。確かに君は綺麗だけど、そのことだけで付き合ったら君に失礼だと、思う……」




……結局あなたは"断る"のね。だけどそんな言い方じゃ、誰も諦めないわ。




「それなら、私を知るためにデートしてください」




ゆっくりと近づき、腕を絡める。戸惑うあなたは……優し過ぎる人。




───これは……なに? あの男の人……少し若いけど、"お父さん"に似てる気がする……。それにあの女の子……時折同じ声で別のところから……。どういうこと?




◇◆◇◆◇◆◇◆




──場面が一瞬にして切り替わる。




夕陽がキレイ。あなたとふたり、誰もいない……。




──浜辺? に座る、照れながらも何となく曇った顔をしているあの男性。そして……幸せそうに彼の腕に寄り掛かる黒髪の女性。何だろう、二人は全く噛み合っていない気がする。




ずっと一緒よ……。ここでだけは……私だけのもの。




──ぞわっと、悪寒が走った。怖い……?




◇◆◇◆◇◆◇◆




……気がつくと、見覚えのある場所。


ああ、ここって……"お父さん"と"お母さん"がいたとき、一緒に住んでいたアパートだ。




「……なぁ、夢の中で別の女性といたら……浮気になるのかな? 」




少し疲れたようなお父さんの声がして、振り返る。




「あら、あなたに浮気願望があったの? 」




からかうようなお母さんの声。


お父さんはうつむき、暗い表情をしていた。




「ない……と言いたいところだけど、夢では内なるものが解放されるときがある。だけど……」




「夢で浮気してるわりに、冴えないわね。何かあった? 」




あくまで優しく。




「……眠るのが怖い。彼女に会うのが怖いんだ。眠るたびに彼女がやってくる……から」




怯えている?




「……どんな人? 」




「"黒い艶のある長い髪"の……怖いくらい"綺麗"な人なんだ」




……え? それって……。




「まぁ! 美人さんなのね! 」




お母さんだってすごく綺麗。




「……ただ綺麗な人に慕われるならいい。光栄、と言えるだろう。でも……私は"彼女の想い"には応えられない気持ちが少なからず、夢の中でもあるんだ」




「私と……江梨子がいるから? 」




「ああ……」




◇◆◇◆◇◆◇◆




──また場面が切り替わった。灰色の、息苦しい空間。




来ない……。何故? 気がついていないはずなのに、何故? "何故あなたは眠らないの"?




──怖い。あの悪夢みたいに怖い顔をしてるあの女性……。




何故、何故私に振り向いてくれないのかしら。……違う、違う。そうじゃなかった! 私はそんなつもりじゃ……! でも、でも! ……好きになってしまった。




怖い顔から一変して、苦しそうな顔。




ダメね……、抑えきれないわ。私のものにしたい気持ちの方が強いもの。


私のものにするには、どうしたらいいかしら? ……大切なもの、消してあげたら、私を見ざる得ない……わよね?




──嫌な感じ……。この感じは……!




………は眠らなきゃ生きていけない。その時まで、"待ってあげる"。




◇◆◇◆◇◆◇◆




──もやもやした空気の空間。私、知ってる気がする……。あ、お父さんとお母さん?




『ダメだ! 江梨子、来るんじゃない! 』




『江梨子! あなたは"逃げて"! 』




──え?




『どうして? お父さん、お母さん、どうしたの? 』




──小さな私が不安そうに二人をみていた。眼前迫り来る何かに怯える二人。あのとき……わからない何かに、私も怯えていた。




『江梨子! "戻れ"! 』




──小さな私が消え、私の視界が光に包まれる。……そうだ、このあと……"私は自分の布団で目覚めた"。不安になって、二人の寝室に、足をもつらせながら駆け込んだ。……「お父さん、お父さん! 」って揺り動かしたとき……お父さんが冷たくて……「お母さん! お父さんが冷たい! 」ってお母さんを揺り動かした。そのお母さんも……冷たかった……。

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