表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

舞台裏『夢守人』

──彼女から離れてどれくらいになるかな?




ここは現実世界とは時間が交錯しない。ほんの数日かもしれない。……覚悟もなく、一時の感情に流された。それはわかってる。でも俺は……"兄"になりたかったわけじゃない。"恋人"になりたかったんだよ。本音で願っちゃいけないってわかってはいても。




……今までの女の子はのめり込んで、現実世界に戻れば忘れ、甘い一時の余韻のみが残る。




彼女だけが……簡単に行かなかった。女の子は皆おなじだなんて、ただのエゴだったと思い知らされた。


"恋人"役をするたびに彼女は冷静だった。ダメだってわかっていたのに……俺は焦って、"彼女の台詞を操作"してしまった。それが原因で、彼女の記憶の片隅に"俺"が残ってしまった。副作用ってやつ。だけど、逆に俺は忘れられなくなっちまった。操作していたとはいえ、彼女の"笑顔"と"声"は他の女の子とは違っていて……もっと知りたくなった。本気になったって、彼女の心は簡単には動かない。興味のないことに興味を持たせるって、難しいよな。




「よお! おまえまでこっちに来ちまったんだな」




見知った相手。驚きもせずにゆっくり振り向いた。




「"あの子"が上手く行けば、おまえが『夢アリス』だったのになぁ」




「興味ねぇよ、夢アリスなんて」




そう、俺が夢アリスに興味がない。俺が夢アリスに興味を持てたならば、こんな思いなんかしなかったよ。




「で? "繰り上がり"で"妹ちゃん"が『夢アリス』になったと。夢アリスの子どもは夢アリスになった……」




「……別に世襲なんかじゃねぇよ」




そう、前夢アリスは、俺の"母親"だった。


父さんは『夢住人』で、母さんが『夢アリス』。……こいつは、両親の親友。




『夢見人』とおなじだ。才能があるってだけ。たまたまだ。俺と妹が候補だっただけなんだよ。


表面的には俺が器用で、妹は内面的に器用だった。




「……後悔、してんのか? 」




「何を? 」




夢アリスを? ……彼女を?




「もちろん……"あの子"のことだよ」




「後悔……してないわけ、ないだろ。だからって……」




唇を噛み締める。"兄"役をして"妹"になった彼女の想いを受け止めるか、『夢守人』になってまでも気持ちに正直になるか。


……もう俺の中では、"役"の領域を越えてしまったんだから、どうにもならない。他に道なんてなかったんだよ。遠くから見つめるだけで我慢しなく…………え?




俺は思考を止めた。




「あ? 『夢アリス』がなんでここにいるんだ? 」




プラチナシルバーのロングの後ろ姿。宙に浮きながら何かを見ている……?


……俺の中で何かが弾ける。




「違う! あれはアイツじゃない! 」




何で……何でここにいる? "舞台裏"に何故!?




俺の言動にはっとして……同時に走り出した。嫌な予感がする……。




近くまでいくと、違いが見た目にもあった。……赤メッシュがない。母さん譲りの赤メッシュが。




「おいおいおいおい?! 何で、何でここに"あの悪夢"が再現されてんだよ?! 」




……視線の先に映っていたのは、"父さんと母さんとおじさん"の3人が逃げている映像。




「……『黒の女王』」




そう、黒髪の腰から下が茨のような蔦になっている化け物は『黒の女王』と呼ばれていた。


『夢見人』を殺し、発狂した『夢アリス』のなり損ない。『夢守人』どころじゃない大罪人。幽閉場所から逃げ出した。『夢住人』を殺し続け……自分がなれなかった『夢アリス』を殺すために。


……このとき、俺と小さかった妹は自宅にいた。だから現場を知らず、『黒の女王』を見ていなかった。……悪寒が絶え間なく、俺を襲う。




━━アイツが……アイツが父さんと母さんを殺した……!




いや、今はそんなことを考えてる場合じゃない。俺は"彼女"に振り返り、力の限り、"意識"に叫んだ。




──『戻れ』




その瞬間、"彼女"は消え去った。


……怯えた表情をさせてしまった。きっと、現実世界に戻っても焼きついているだろう。出来るなら……俺が傍にいて……抱き締めたい……。到底無理な話だとわかってはいても。




……このあと、散り散りになったために、"こいつ"だけは助かった。だけど、父さんと母さんはすぐあとに殺された、そう聞かされた。




『黒の女王』、アイツはまだ"どこかにいる"。自我が残っているかもわからない"殺人鬼"。




今ここでそれが再現されたということは……また"惨劇"が起こる。




「……どうしたらいいんだよ。二度も逃げ仰せるとは思えないぜ。親友を殺されたんだ。仇を討ちたくても……! 」




いつも飄々としているやつだが、父さんと母さんを大切に思っていたのは確かだ。


"女の相手ばかりでめんどくせぇ"、なんて理由で役目を放棄し、『夢守人』になった。……でも、俺は知ってるよ。あんたが『夢守人』に自らなった、"本当の理由"を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ