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心配と夢舞台『帰り道』

──青ざめた田添(江梨子)を支えながら、佐伯(多実子)が教室に入ってくる。




……田添、何があった?


1年の頃からクラスはおなじ。だけど、話したことはない。俺は……見ているだけ。コントのような、アンバランスで仲の良い姿を。




「……貴裕たかひろ~? 今日もまた"江梨子ちゃん"を見てるのかな~? 確かに彼女、超美人だよな~」




「やめろ! 茶化すなよ……」




悪友の階藤かいどうは、俺が田添を入学当初から好きなことを知っている。思わず目が行ってしまうのをからかわれてしまう。


……せめてもの救いは、彼女が恋愛に興味がないこと。それはそれで困るが、誰かに盗られるのも嫌だった。


そう、断片的に聞こえていた。いや、"聞いていた"。女子の会話を盗み聞きなんてよくないとは思うけど、話し掛ける勇気のない俺にはそれが精一杯。




━━"夢の中の君"にも手が出せないくらい、チキンだから。




俺は知っている。現実と夢は違うって。……だけど、たとえ夢の中でも、君にキスしたやつに嫉妬してしまうんだ。




最近、やけに夢の話が多い。もしたかしたら、夢で何かあったのか?


心配しか出来ない自分が悔しかった……。




◇◆◇◆◇◆◇◆




──俺の隣には、変わらず君がいる。手を繋ぎながら嬉しそうだ。




現実の君はあまり笑顔を見せない。家庭環境のせいだろうか。あまり人と関わろうとはしない。……そんな君に話し掛ける勇気すらない。




──そう、これが夢だと俺は知っている。




「……貴裕? 」




不思議そうに呼び掛ける君。実際の君はきっと、俺の下の名前を知らないだろう。




「何でもないよ、"江梨子"」




声を掛けられないのだから、呼ぶこともない。だからせめて、夢の中では呼びたい。




学校からの帰り道。夕陽に照らされながら、ゆっくりと歩く。……何故だろう、夢の中なのに、"彼女の手だけは温かい"。




「変な貴裕だね。……あ! 」




何かを思い出したように声を大きくする。




「ん? どうした? 」




「どうした? じゃないよ! 遠征試合はどうだったの? 貴裕、部活のこと、中々話さないし」




ああ、それか。毎日のように、"夢の中の君"と話すようになってからどれくらい経っただろう。




「……負けたよ。ま、実力もないしさ」




現実の君に話したことはない。話すきっかけすらも。……最初の頃のように、たまに勘違いしそうになる。




現実の君のことは見ているだけ。


夜眠ると夢の中の君に会う。日課のように。前日話した続きが待っているんだ。




「……何言ってるの?! 貴裕、頑張ってるじゃない! そうやってネガティブが先行しちゃうから、結果が出ないんじゃないの? 次こそは勝ってやる! って意気込み、見せてよ! ……"わたし"、あなたの笑った顔が見たいの」




……一瞬、脳内にノイズが走った。しかしそれは、本当に一瞬で。




──言いそうになったよ。『君は誰? 』って。だって……現実の君は……絶対にそんな言葉で叱咤激励なんて、出来ない人なんだから。




◇◆◇◆◇◆夢アリスView




──変わらないあなた。




"今日も"笑ってはくれないのね……。




「……貴裕? 」




わたくし、知っているわ。彼女に苗字すら呼ばれてないこと。




「何でもないよ、"江梨子"」




わたくし、知っているのよ。あなた、彼女のフルネームを知っているだけで、苗字すら呼んだことないでしょう?




シチュエーションは学校からの帰り道。夕陽に照らされながら、ゆっくりと歩く。……お願い、この手の感触だけは伝わりますように。




「変な貴裕だね。……あ! 」




わたくしとしたことが、忘れていたわ。




「ん? どうした? 」




「どうした? じゃないよ! 遠征試合はどうだったの? 貴裕、部活のこと、中々話さないし」




貴裕、あなたは聞かないと何も話してくれないのよね。




「……負けたよ。ま、実力もないしさ」




いつもそう、あなたは自分に自信がないの。何故? こんなにも素敵なのに。




気がついてほしい。でも、知られてはいけない。




ああ……! まどろっこしいわ!




「……何言ってるの?! 貴裕、頑張ってるじゃない! そうやってネガティブが先行しちゃうから、結果が出ないんじゃないの? 次こそは勝ってやる! って意気込み、見せてよ! ……"わたし"、あなたの笑った顔が見たいの」




まずい、と思った。彼から得た"彼女"はこんな人じゃない。今一瞬、"エラー"が発生した……。今まで失敗しなかったのに。どうしよう……どうしよう。




──わたくしの本音を言ってしまったの。

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