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報復  作者: お蕎麦さん
1/1

プロローグ

1話目投稿、シリアスです。

【2019/05/13 20:39:04】

 ジェイコブは海が好きだった。

 妻のオリビアと出会ったのも海だった。

 2人は夕焼けに包まれた海辺で恋に落ちた。

 プロポーズも海辺で済ませ、結婚記念日だって毎回海で行った。

 2人にとって海は「かけがえのない場所」だけでは言い表せないような、特別な場所だった。

 今、この車は…海(・)に(・)沈(・)ん(・)で(・)い(・)る(・)。

 2人にとっての出会いの場所は、別れの場所になろうとしていた。

 ジェイコブは目を覚ました。

(確か俺は運転していて……)

 そう思考し始めたが、車の窓の外は水しかない。たまに小魚が窓の外を横切ったり、車内に興味を持ってガラスにぶつかってくる。そんな様子で冷静に頭を働かせるわけがない。

 と、後ろでうめき声が聞こえた。

 振り返ると妻のオリビアが見える……が、おかしい…1人足りない。

 娘のエマがどこにもいない…。

 そうだ、今回出かけた理由は娘の4歳の誕生日だったからだ。

 今朝元気に起きてきたと思えば、「ハイキングに行きたい!」とせがむものだから当初の予定をキャンセルしてハイキングに向かったのだ。

 その帰り道、エマは疲れ果てて眠ってしまったからオリビアに抱かせて眠らせたのだ。

 幸せそうな2人を尻目にしながら運転していて……

 必死に思考を凝らしていると、突如オリビアが悲鳴をあげた。

 狭い車内の中に、この世の終わりを見たような声を出すものだから全ての思考が止まり、一瞬のうちに我に返った。

 妻の服…妻のすぐ近くのシートが外れてぐちゃぐちゃになっている。

 もっと正しく表現すれば、「肉や赤い液体と混ざりあってシートがぐちゃぐちゃになっている」だ。シートのあいだは見えないが、オリビアの席からなら良く見えるはずだ。

 そしてこの悲鳴…間違いなく、エマは原型も止めていないほどの肉塊になっているはずだ。

 シートベルトを外し、上半身を何とかひねり、妻の方を両腕で掴んだ。

「オリビア……しっかり…しろ!もうエマは…」

「あ…あな……あなた…これは何?!悪い夢なんでしょ!なんなのよアイツらは!」

 妻は再び絶叫した。

「今はまず…2人がここから出て、一緒に…生き延びることを、優先しよう……!」

「エマは…?エマはどうするの!この子だけ置いていけないじゃない!起きて!起きなさいよ!」

 完全なパニック状態だ。横のシートの間に手を入れ、何かをまさぐっている。

 妻が腕を動かす度に、シートの間からハンバーグを練るような、ニチャ、ニチャと音が聞こえる。

「オリビアァ!」遂にジェイコブも絶叫し、オリビアの肩を強く揺さぶった。

 妻はジェイコブの方にグルッと向き直った。

 先程より顔に返り血がついている。

 血塗れの手でジェイコブの顔を掴んだ。

「あなたも…生きてる?…あなたも(・)…?違う、だれもしんでない。だれも…」

 オリビアの手に、より一層力が入る。

 生臭く、むせ返るような娘の匂いが鼻を突く。

「クソッ!」

 ジェイコブは強くオリビアの手を払い除けた。

 そこで初めて気が付く。

 さっきよりオリビアの顔についているちの量が増えている……?しかし、頭から血はたれていない…が、何かおかしい。オリビアの様子は、なにかいつもと違った。

 そう言えば頭がさっきからどんどん痛くなっている。

 と、オリビアの顔に下(・)か(・)ら(・)血が垂れた。

 なんと、足から血が垂れて顔に当たっていたのだ。

 気が付かなかった。

 この車は…上下逆転している。

 そして、オリビアの足は潰れたソーセージのようになっていて、どこからどこが足なのか、分からなくなっていた。

 しかしそんな事に気が付いていない様子でオリビアは暴れる。

 ついちオリビア天井に落っこちた。

 そこで初めて気がついたようだった。

 シートに挟まれ、切断された自分の足に。

 見るも無残な姿になった妻の様子に、ジェイコブは胃からはいでてきた液体をフロントガラスにぶちまけた。

 妻はもう声を出していない。娘も確実に生きてはいない。

 弔い代わりに……この思い出の海に沈めよう…

 グローブボックスを開けると、中から一丁の銃を取り出した。

 水圧でガラスも割れてきている。このまま3人で沈むのも良いが、先程のオリビアの一言が気になった。「な(・)ん(・)な(・)の(・)よ(・)ア(・)イ(・)ツ(・)ら(・)は(・)」。確かにオリビアはそう言った。

 この2人を殺したツケを払わなければならない奴がいるってことだ。

 このまま死ぬわけには行かない。地獄で再会の約束をしなければ。

 フロントガラスに狙いを定め、トリガーに指をかけたその時。妻の声がした。「逃げ…」

 驚きと喜びで振り返ったその瞬間、車内に乾いた音、ガラスの割れる音が響いた。


 約13時間前

【2019/05/13/07:35:24】

「…本当にいいの?」エマは上目遣いで母親を見て、小声で確認する

 クスッと笑ってオリビアは膝を曲げる。

「良いのよ!もう30分以上遅くれてるパパが悪いんだから…!」

「グオー…!グカーッ…!」

「ほら、パパも『良い』って!」

 オリビアは優しくエマの背中を押した

 エマは助走をつけて、爆睡中の父の腹へ飛び込んだ。

「起きろーッ!」

「フグゥオッ?!」

 明らかにいびきとは違う、別の父の声に娘と母は笑い転げた。

「アハハハッハハッ!」

「フフフッ…!」

「グオオッオ……!」

 父は1人、明らかに違う意味で床を転げ回った。

 5月13日、娘の誕生日に「7時に起きるから」と予告した父は、予想通りというかなんというか…30分以上寝坊したため「愛する娘からの逆プレゼント」を腹におもっくそ喰らったのだ。

 これは軍人上がりの、鍛え抜かれた父だから耐えられる業であってお腹の膨れ始めた運動をしないお父さん方にやってはいけない事だ。

 朝食を済ませて着替えるも未だ腹を抱える父に、再度娘が突進する。

「パパーッ!」

「んぐぅ?!」もはや厄日である。

「ハイキング行きたい!」娘は目をキラキラと輝かせながら言った。

 今日は水族館に行きたいって前々から言っていたはずだが…そのためにちゃんと予約をー…。

 娘の後ろで付いているテレビが、楽しそうにハイキング特集なんかをながしている。

 絶対あれの影響だ。こうなったらもう娘は話を聞かない。

「あー………、オリビ…」いた。よく見たらテレビの横にいた。

 そしてあちらも目を輝かせている。

 そうかー…エマは母親似だなー……。

「ハイキング……ダメ?」上目遣いでこちらの顔を覗く。

 そんな巧みな技をどこで…ッ!


「というわけで、今日の予定をキャンセルさせていただきたいのですが…」

「はい、かしこまりました……ハイキング、楽しんできてくださいね」

「ありがとう」

「良い一日を」

 水族館の予定を潰し、ハイキングに出かけた。

 車を出し、海辺を走って、特集で取り上げられていた近場のスポットまで出向く。

 海も一望しながら、山を歩けるらしい。

 頂上で、娘の好物の日本の米を使ったおにぎりを食べたり、海をバックに山から写真を撮ったり。

 太陽が辺り一面を照らして、幸せいっぱいに包まれて1日が終わる……はずだった。

 長い距離を歩き、好物のご飯を口いっぱいに頬張って、お腹いっぱいになった娘はやがて眠りについた。

「こんなに愛らしくてもあと何年もすれば俺を避けていくんだ……」娘の頬を撫でながらジェイコブは呟いた。

「いいじゃない。腹に突進されることも無くなるわよ?」

「もうあんなに重くなってたなんてなぁ……4年なんて早いもんだよ」

「……ねぇ、この世で1番思い物体って何か知ってる?」

 オリビアは振り向きながら尋ねた

「クイズは得意じゃないんだけど…」

「なぞなぞみたいなものよ」

「…鉄1キログラムの方が重い」

「問題が違うわ」

 オリビアは苦笑する。

「なぞなぞ『みたいなもの』だろ?いつもの哲学か…皮肉みたいなアレか!分かるわけないじゃん…」

 アヒル口にしながらジェイコブは不満を漏らす。

「ちょっとぐらい考えてくれてもいいじゃない!」

「考えたさ!綿1Kgの方が本当は重いんじゃないかって」

「もう!」

 今度はオリビアが不満を漏らし、口をアヒルのようにすぼめる。

「で、正解はなんなのさ」

「もう愛していない女の身体よ」

 オリビアは両手を広げて、ジェイコブを迎えようとした。

「…ボーブナグルの言葉だね?」

「あら?知ってたのね?」

 あんまりにもオリビアが意外そうに聞き返すものだから、面白くなってニヤッと笑ったジェイコブは

「あぁ、『妻が重くなってきた』ってグールグルで検索したらヒットした」と答えた。

「このっ!」オリビアは拳を振りかぶるも、ジェイコブは拳を交わして足を持ち、首に手を回して持ち上げた。

 お姫様抱っこ、というやつだ。

「冗談だよ!……こんなにも軽いさ」

「エマは重くなってきたって?」

「あー……」

 2人は笑いあってキスをしようとしたが、周りが様子をじっと伺っているのがだんだん恥ずかしくなってきて、帰ることにした。

 エマを後部座席に乗せて、家まで運転するから2人で休むように伝えた。

 2人が寝ている間店に寄ってサプライズで追加のプレゼントで、少し大きめのテディベアを買った。

 一服して車に戻ると、オリビアは起きていた。

「愛していないわけじゃ無さそうね」といたずらっぽく笑うオリビアに、今度こそキスをして車を出す。

 しばらく車を走らせていると、オリビアが不意に呟いた「あのバイク、ハイキングの時からずっと同じ道で来てるわね…ご近所さん…なわけないわよね」

 すると、バイクは車を囲うように併走し始めた。

 うち1台はヘルメットをかぶっていなかった。

 一瞬見えたその表情は…笑っていた気がする。

 瞬間、銃声と共に車が大きく揺れた。

 右側のタイヤが両輪ともパンクしている。

 左側からは押し出すようにバイクが攻めてきている。

 前に進もうにも、目の前にはヘルメットを被っていないバイクがスピードを落として来て進むに進めない。

 車を停止させようかと考えた瞬間、あることに気づく。

 この次は左に曲がる道……右には…崖が……!

「このッ━━━━」時既に遅く、車は宙を舞っていた。


【2019/05/13 20:42:05】

 ジェイコブは海面に浮上した。

 ふと、下から何かが浮き上がってきた。

 エアバッグと…それに引っかかって浮いてきたテディベアだ。

 綺麗にラッピングされていたはずが、袋は裂け、金属片が刺さっている。

 それから救急隊がジェイコブの元へついたのは、沖に上がってから2時間あとの事だった。

途中アメリカンなジョークを入れてみましたが、なかなか難しいものでした。

多分完結させますので、よろしければ最後他でお付き合いください。

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