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第六話 ハヤテと優しき者


前話との期間が空いてしまいました。

申し訳ありません。

第六話


 「もしもし? そっちの状況は、どう?」


 「今のところ何にもないな……」


 前回と同じように通信石を介してルミリアとの交信をする囮の俺。

 今回も同様に縛られ身動きが取れない状態だ。

 辺りは、木々が生い茂る密林地帯で、ルミリアたちから俺の様子は、確認できない。

 俺の命綱は、この通信石が頼りなのだ。


 「今回のターゲットは、角兎(つのうさぎ)よ。見た目は、可愛いけれど、性格は、獰猛(どうもう)で、危険が近づくと(ひたい)に生えている鋭利なツノを使って強靭な後脚(うしろあし)で大地を蹴り相手に飛びかかる、別名、弾丸兎(だんがんうさぎ)とも呼ばれているわ。ただそのツノは、砕けば薬になり強靭な後脚の肉は、美味。割といい値段で取引されているわ」


 「へぇ〜。説明乙」


 「パパ。お腹すいた」


 「この声は、カミィか。俺も、腹減ったぞ。少し待ってろよ」


 「うん」


 そんな、カミィとの会話をしていた時だった。


 「なんだ?」


 俺の視線の先の茂みがガサガサと音を立てて揺れる。


 「どうしたの?」


 その茂みから出てきたのは、丸い形をした何かだった。

 犬のような風貌。

 マスコットキャラクターになり得る可愛らしい見た目。


 「ワン!」


 愛らしい鳴き声。

 そんな犬のような何か、が近づいてくる。

 そして、立ち止まり、通信石の匂いを嗅ぎ始めた。

 尻尾を振り右往左往と通信石の周りをウロウロ。

 俺は、それをじーっと眺める。

 そして、通信石を口に咥え俺の顔を見て「ワフッ!」とドヤ顔をかまして全速力でしげみの中へと消えて行った。


 「はぁぁあああああああ!? おい! っざけんな! クソ犬!」


 俺は、犬のような何かに向かって罵声を浴びせるが、もう何かはいない。

 唯一の、通信手段がなくなり、縛られたままの俺は、どうしたらいいかもわからず異世界の密林でただ呆然と木々を眺め始める。

 俺は、このまま死んで行くのか。

 二度目の死。

 もう流石に転生という道は残されていないだろう。

 正真正銘の死。

 本来行くはずだった地獄にて俺は、苦しみながら死後を過ごすのだろう。

 そんな覚悟を決めた時だった。

 再び茂みが音を立てて揺れる。

 もしかしたらさっきの犬が帰ってきたのかという淡い期待をしたが、違った。

 そこに現れたのは、俺を地獄へと送るモンスター達だった。

 兎のような体にツノが生え体毛は、真っ白。

 見た目は、可愛い。

 だが、これがルミリアが言っていた角兎だろう。

 角兎の群れは、俺を見つめながら後脚を震わす。

 別名、弾丸兎とも呼ばれているらしい。

 多分、縛られて狙ってくれと言わんばかりの俺目掛けて発射準備をしているのだろう。

 もう死を逃れることはできまいと俺は、覚悟を決め、同時に角兎は、弾丸の如く俺に飛びかかった。

 ドスっと鈍く体が貫かれる音がする。


 「ピギュゥ!」


 痛みがない……。

 なぜか。

 先に悲鳴をあげたのは、角兎の方だったからだ。

 

 「……ん? 何が起こった? 俺は、死ん………? あれ? なんともない」


 貫かれるはずだった身体にはなんの異常も見られない。

 異常だったのは、矢が刺さり地面に転がっている角兎の方。

 角兎達は、仲間の一匹がやられ、たじろぐ。

 俺は、転がる角兎を見つめ呆気にとられる。

 すると。


 「大丈夫ですか?」


 茂みの奥から俺を心配する声が聞こえる。


 「ん? ルミリアか?」


 俺は、ルミリア達が助けに来たのかと茂みをじっと見つめたが現れたのは、ルミリアではなかった。

 それもそのはず、ルミリアは、「大丈夫ですか?」と優しい言い方はしない。

 出会ってまだ間もないと言えど、もっと強気に「貴方何やってるの? 馬鹿なの?」くらい言うと思うからだ。

 では、誰が現れたのか。

 その人物に俺は、言葉を失った。

 一目見て俺は、分かる。

 この特徴的な長い耳は、エルフだと。

 長い引きこもり生活で覚えた俺の中の知識達がそう言っているのだ。


 「あの。お、お怪我はありませんか?」


 ルミリアなら、「怪我はないかしら? 世話が焼ける囮ね」とか言うだろう。

 いや、もしかしたら心配もしてくれないかもしれない。

 だと言うのに、現れたエルフは、優しく声をかけてくれる。

 それは、このエルフがまだ幼き少女だからだろうか。

 純真無垢でピュアなハートを持ち、まだ大人という穢れを知らないからこんなことが言えるのだろうかと俺は、一思いに思う。


 「おう。ないぞ。もしかして君が助けてくれたのかな? それだったらありがとう。死ぬところだった」


 「い、いえ! そんなお礼を言われるほどのことは………」


 お礼を言われて恥ずかしいのか縮こまりもじもじと照れる淡い水色おさげの可愛いエルフの少女。


 「いや。本当に助かった。よかったら名前を教えてくれないか?」


 「え、えっと、わたしは、エレナ…と言います……」


 「エレナか。俺は、ハヤテだ。助けてもらって悪いんだが。ついでにこの縄も解いてくれないか?」


 「は、はい」


 快く引き受けてくれたエレナは、俺の背後に回り縄を解いてくれた。


 「ふぅ。ありがとな」


 「い、いえ……」


 「全くルミリアとは、全然違うなエレナは、優しいし。可愛いし」


 「はぅ………!? そ、そんな、わたしなんて気が弱くて、落ちこぼれのエルフなのに……そんな…」


 自身のことを落ちこぼれだと言うエレナ。


 「そんなこと言うなよ。俺にとっては、命の恩人なんだからな。こんなに小さな体で物凄い勇気と優しさがあるんだから立派なエルフだぞ」


 そう言って俺は、今にも泣きそうなエレナの頭を励ますように撫でる。


 「えっ……? え、えっと、あ、あの!?」


 頭を不意に撫でられたエレナは、動揺を隠せずパニックに陥る。

 そんな、エレナの姿を見た俺は、不覚にも可愛いと思ってしまった。

 その瞬間、エレナの頭を撫でていた右手から銀色の光が放出される。


 「うお!? なんだ!?」


 瞬く間にその光は、俺とエレナを包み込む。


 「え? な、なんですか?!」


 何が起こったのか訳がわからない二人。

 

 その銀色の光は、次第に光力を失い消失した。

 ほんの数秒の出来事だった。


 「い、一体なんだって言うんだよ……。う……ん? 急にねむ……け………が…」


 「わ…た……し…も………です……」


 光が消えた後、急な眠気に襲われた二人は、地面に倒れこみ眠ってしまった。

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