第十話 犬とモンスター
更新が遅れてしまったのその分長めです。
俺たちは、何だかんだありながらも無事、質素な食事を済ませエレナ捜索に動き出したのだが……。
「それにしても、何の手がかりも無いとどうしようもないな」
森の中を歩きながら俺は、先頭を歩くルミリアに言った。
「今更そんなこと言う? あんたがエレナを探したいって言ったんじゃない」
ルミリアの言う通りエレナを探したいと言い出したのは俺だ。
しかし、エレナとは出会ってまだ間もなく、エレナの行きそうなところなど全く見当もつかない。
一度エルフの里に戻って、エレナの母に聞こうともしたのだが、人間をひどく嫌っているあの母親に聞く勇気もなかった。
なので、俺たちは、こうして森を練り歩くしか方法が無い。
「エレナ…見つかる……?」
俺と手を繋いで歩いているカミィが心配そうに口を開く。
「カミィもエレナが心配か?」
「うん…。エレナ泣いてたから……」
「だよな。心配だよな。大丈夫! 任せとけ! 俺が必ずエレナを見つけるからな!」
エレナのことを心配するカミィの頭を俺は、元気づけるように優しく撫でる。
「うん」
その時だった。
「わふんっ!」
どこからともなく鳴き声が聞こえた。
「何だ?」
俺は、正体を探るべく辺りを見回すが一面生い茂る木々ばかり。
「わふんっ! わふんっ!」
今一度聞こえる鳴き声。
俺の視線の先の茂みがガサガサと揺れ始めた。
その揺れは、段々、俺たちの方へと迫ってきた。
「なんかどこかで聞いたことのあるような声だな………」
俺は、森の中に響く鳴き声に聞き覚えがあった。
そして、揺れる茂みは、俺たちの前で止まる。
「わふっ! わふっ!」
「あっ………!」
俺がこの鳴き声の正体を思い出すのと同時に鳴き声とともに姿を現したのは、角兎討伐失敗の原因を作り出した犬のような何かだった。
その、犬のようななにかは、尻尾を勢いよく降りこちらをじっと見つめている。
「やぁ〜。可愛い〜。犬じゃないの。どしたの? 迷子? お腹すいたの?」
その犬の可愛さにルミリアは心を奪われたようだ。
「これ犬なんだ」
異世界に犬がいるわけ無いと思い犬のような何かと呼称していたのだが、やはりこの世界にも犬がいるのかと
犬を撫でながら先ほど調達したピィチの実を手のひらに乗せて差し出すルミリア。
「くぅん!」
差し出されたピィチの実を見るや否や駆け寄り、尻尾を振りながら上機嫌に勢いよく食べ始めた犬。
「やぁ〜! 本当可愛い! よしよし〜」
食べている様子も女子的には可愛いらしい。
パクパクとピィチの実に食らいつく犬の頭を撫で回すルミリア。
「わふっ! わふん!」
ピィチの実を食べ終えた犬は、お礼と称してなのか尻尾を振りながら吠え、またこちらを尻尾を振りながら見ている。
「ほら。カミィちゃんも撫でてみて。可愛いよ!」
「………!」
犬を撫でるように促されたカミィはずっと俺の後ろに隠れて犬を見ていたが、恐る恐る近づき犬の前にしゃがみ右手のひらをそっと犬の頭の上においた。
「くぅん」
カミィの手が気に入ったのかご満悦な様子で甘えるような声を出す犬。
「やぁぁ〜! 眼福だわ! この光景! ちょ〜やばいんですけど! 可愛すぎ
〜!」
カミィと犬の触れ合いに過剰な反応を見せ興奮するルミリアをよそに俺は腹を煮えたたせていた。
角兎討伐時、この犬が現れ通信石を奪って逃げたことで俺は死にかけたのだ。
俺は、この犬に一言言ってやろうと一歩前に出てありったけを発しようとした時だった。
「わふっ! わふんっわふっ! わふっ!」
その犬は、何かを思い出したように構っていたルミリア達に背を向けて吠えだした。
「どうしたの? コロちゃん。そっちに何かあるの?」
「わふわふっ! わふんっ!」
ルミリアの言う通りと言わんばかりにコロは一定の方角に向かって吠え続けている。
俺は、その光景よりもたった今この犬の名前がコロになった事に驚きを隠せないでいる。
「ただ吠えてる……? ってわけでもなさそうだな…」
「わふん! わふっ!」
未だ吠え続けているコロを見て俺は決心する。
「よし。行ってみるか」
「わふっ!」
コロは、俺の決心を聞いてこちらを振り向き、付いて来い、と言うような力強い鳴き声を発し、吠えていた方角へと駆け出した。
「あ! おい!」
俺たちは、勢いよく駆け出したコロを追って茂みの中へと走る。
「コロ! 一体どこまで行くのかしら? ピィチの実しか食べてないから、もう、ちょっと限界よ……」
コロの移動スピードについて行くのもやっとなのだが俺たちを導いている距離もまた、長い。
かれこれもう、五分はひた走っているだろうか。
ルミリアは、体力の限界を嘆き。
俺は、走り疲れたカミィをおぶってコロの後をついて行く。
「わふ! わふ!」
そして、先行くコロが立ち止まり吠え始める。
「はぁ…疲れた……。コロ、ここか? ここに何があるってんだ? ……はぁ」
「ふぅ…空きっ腹にこれは、答えるわね……」
恐らくここが終着点であろう所でコロは、吠え続けている。
そして、一息ついて俺は、背中からカミィを下ろしコロに近づいた。
「ん? これは……見覚えが……」
コロの吠える先にあったのは、片方だけの緑色の靴。
恐らく右足の靴だろうと思われる。
そんなものがこの森の中で落ちている。
そして、俺はこれに見覚えがあった。
「どうしたの? あら? これって…エレナの靴じゃ無いかしら?」
「あ! そうか! 思い出した! これはエレナが履いてた靴だ! でも、なぜこんな所に…? それに片方だけ………?」
ルミリアの言葉によって思い出された記憶。
それは、エレナが履いていた靴の記憶だった。
そして、俺は、この靴の周りの異常に気づく。
地面は、えぐり取られ。
木々は、引き裂かれている。
「ハヤテ。もしかしたら、よくない事が起来てるのかも知れないわ」
この惨状を見たルミリアは、エレナの靴を手に取りそう静かに口を開く。
「なっ…。で、でもまだそうと決まったわけじゃないだろ? 偶然かもしれないじゃないか。たまたま、荒れた所でエレナが靴を落とした………とか?」
「いえ。ハヤテ。これは、私の推測だとモンスターの仕業よ。モンスターが一人でいたエレナを連れ去ったとしか考えられないわ」
俺の意見は、呆気なく否定され、モンスターがエレナを攫ったと推測するルミリア。
「え…? でも、何のために……? モンスターが人を襲うのは、知ってるけど。攫うって言うのは、聞いた事がないんだが…?」
俺知識だとモンスターと言うのは凶暴で出くわした人間や他のモンスターを躊躇なく襲うという認識なのだが……。
現に俺は、角兎に襲われているのでわかる。
「ええ。確かにモンスターが人を攫うというのは、珍しいケースよ。普通ならその場で襲われるはず。まぁでもモンスターにも危機感は備わっているから自分より強い相手は襲わない。だけど、エレナは、幼いし。一人だった。これだけで襲われる要素は十分にあるわ。そして、攫うという行為をするのは、貴方が遭遇した角兎のような獣型ではない」
「ん…? 獣型…? それってどういう?」
「貴方、何も知らないのね……。はぁ。仕方ないわね。無知な貴方にこの私が教えてあげるわ」
「…なんかムカつくんですけど?」
「黙って聞いてなさい。エレナを攫ったと思われるモンスター。それは……」
ルミリアの態度にムカつく俺だがそれをぐっと堪えて話の続きを聞く。
「……それは?」
「突然変異によって現れた人型モンスター。通称、擬人化モンスターよ」
「…………は? 擬人化……だと…?」
ルミリアの言葉から出た擬人化という単語。
俺は、長い引きこもり生活の中で得た知識で知っている。
要するに擬人化とは、物体や生き物、植物などを人の姿で表すという事だ。
俺が知ってる擬人化といえば、ゲームで出てくるモンスターを可愛く人型にするというものがある。
それに、エレナが攫われたということに俺は衝撃を受ける。
「そう。擬人化。人の姿を持ったモンスター。人間のように言葉を喋り、人間のように多彩な感情を持っている。それに近い存在といえば獣人が当てはまるかもしれないわね。そして……」
「おい、急にどうしたんだよ?」
話の途中で言い淀み一瞬の沈黙の後、ルミリアは、話し出す。
「擬人化モンスターは、一匹で小さい国なら一夜にして滅ぼせる強大な力を備えている個体がいるのよ……」
「……マ、マジかよ。そ、それじゃあエレナは……」
たった一匹で国を滅ぼせる程の力を持っていると聞かされた俺は、最悪の事態を想像する。
「まだそうと決まったわけじゃないわ。だけど、刻一刻を争うのは確か。早くエレナを探しましょう」
「そ、それは、そうなんだが。ど、どうすれば? あてなんか無いんだぞ? こうして迷ってる間にもエレナが……!」
「わふっ! わふっ!」
時間がないという現状に俺は焦っていた。
しかし、コロは冷静にルミリアが持っているエレナの靴目掛けて吠え始める。
「コロ……? あ! もしかして!」
靴に向かって吠えるコロに何か気づいたのかルミリアは、コロの鼻先に靴を近づける。
「スンっ! スンっ! わふっ!」
「そうか! エレナの匂いを辿るのか!」
ルミリアとコロの行動を理解する俺。
そして。
「コロ。行けるかしら?」
「わふん!」
ルミリアの問いかけに自信満々といった様子でコロは答える。
コロは、返事をした後すぐさま身を翻し、エレナの匂いを辿り始めた。
「どうだ? コロ。わかるか?」
「………………わふっ!」
匂いを辿っていたコロが勢いよく吠える。
どうやら、エレナの匂いを見つけたようだ。
「見つけたのねコロ。案内して頂戴?」
「わふん! わふっ!」
匂いを見つけたコロは、その方向へと駆け出す。
そのコロの後を追い俺たちも駆け出した。
「エレナ……。どうか無事でいてくれよ……」
駆け出したコロの背中を追いながら俺は、エレナの無事を願うのだった……。




