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組曲「生徒会」  作者: 若松ユウ
第九楽章 焦燥の鎮魂曲(レクイエム)
43/47

#042「ダカーポ」

@台湾のホテル

海原父「その人物は、とある途上国の健康な青少年を拉致しては病気の資産家に売りつけていた。平たく言えば人身売買。正確な目的は、一方的な臓器交換、いや強奪と言った方が良いな。その人物は、こちらの再三の注意、勧告、警報をことごとく無視し、揉み消し、握り潰してきた。よって、悪質かつ故意に満ちた犯行とみなし、負の連鎖を断ち切るために、強攻手段に踏み切らざるを得なかった。法の裁きは平等だが、時間がかかる。判決が下るまで、悠長に待てない。我々は、一人でも多くの幼い命を救わねばならない。こう言ったところで、平和な国の理想主義的な倫理観で育った二人には、殺人を正当化するための思い上がった自己弁護に聞こえるだろうね。でもね。誰だって手を汚したくないけど、綺麗事で片付かない世界も、地球の片隅には存在するんだ。悲しいことにね。悲劇の英雄を気取るつもりはサラサラないけど、正義ってモノは相対的なものだと思うよ。絶対に正しい真理なんて、虚構でしかない。実在するのなら、とっくの昔に争いは無くなってしかるべきだ。みんなが正しいと思い込んでる、いや、思い込みたいだけなんだ。そして、それは儚く、脆く、簡単に引っくり返るものなんだ。……オッと。いま語ったのことは、すれっからしてヒネコビたオッサンの世迷い言だから、決して本気にしないように。くれぐれも二人は、冷えきって錆び付いたナマグサイ大人になるんじゃないよ」

アイ「偽名でスパイとして活動してるなんて、簡単に打ち明けて良いことではないでしょうに」

海原父「二人のことを信用してるから、打ち明けたんだ。言うまでも無いけど、他言無用だよ」

コンペイ「タゴンムヨウって?」

海原父「他人に言ってはいけないってことだ。――俺に似て、味噌が足りず、ネジ抜け落ち、頭の出来は良くないだろうが、呆れずに面倒見てやってくれ。もしものことがあったら、紺平のことを頼む。無責任で自分勝手な父親だけど、よろしく」

  *

@台湾桃園国際空港

月島「遅いぞ、二人とも」

アイ「すみません。誰かさんが迷子になったもので」

コンペイ「いやぁ、お恥ずかしい」

月島「まぁ、まだ搭乗手続きは始まってないから、よしとしよう。――ここへ来る直前まで、誰かと一緒に来たみたいだったが、知り合いでも居たのか?」

アイ、コンペイと目配せ。

アイ「道案内をしてくださった、ただの通りすがりですよ」

コンペイ「そうそう。ちょっとお節介な、赤の他人です」

  *

@海原家

海原母「この前は、台湾から掛けてたのね、業平さん」

海原父『紺平から聞いたんだな。他言無用だと言っておいたというのに』

海原母「意味が理解できてないのよ。国語の成績は、良くても三だから」

海原父『それは、五段階か?』

海原母「ううん、十段階よ。体育は七だから」

海原父『それ以外は、五以下なんだな。そんなところまで遺伝しなくて良いものを』

海原母「海原家のディーエヌエーは強いわね。血は争えないわ」

海原父『それで、紺平は、今どこにいるんだ?』

海原母「まだ学校よ。あの子、あれでも生徒会役員だから」

海原父『おおかた、体育総務なんだろう?』

海原母「大当たり。業平さんと同じよ」

海原父『まさか、文化総務は、天王寺さんの娘なんじゃ』

海原母「察しが良いわね。わたしと同じよ」

海原父『オイオイ。そのままだと苦労するぞ、紺平』

海原母「それは、これからの二人次第よ。何もかも同じって訳でも無いもの」

海原父『まぁな。――そろそろ切るぞ』

海原母「ハァイ。それじゃあ、お元気で。――愛してるわ、業平さん」

海原父『それじゃあ。――俺も、愛してる』


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