#037「冬来たりなば」
@南館二階
マサル「二学期も、今日で終わりだね」
スイト「そうだね。――今日の南館は、いつもより賑やかだね」
マサル「夏休みに入ってから、三年生は自由登校だったもんね。こんなに大勢集まってる光景も、ずいぶん久し振りだ」
スイト「一月の入試と、二月の卒業式を前に、三年教室は、最後の大掃除だね」
マサル「来年は、僕らの番なんだよね」
スイト「そうだね。あと一年なんだよね」
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@音楽室
ゲンスケ「吹奏楽部は、部員が三年生だけなのか」
タマキ「そうよ。軽音楽部と一緒よ」
ゲンスケ「だから十二月の今になっても、部長が代替わりしてないという訳か」
タマキ「その通り。それで、さっきの話に戻すんだけど」
ゲンスケ「三学期は、卒業式に向けて、平日は毎日練習したいって話か?」
タマキ「そう。その話よ」
ゲンスケ「三年生は自由登校なんだから、何も昼休みと放課後に集まらなくたって良いじゃないか。時間帯をズラせよ」
タマキ「そうはいかないわ。昼休みと放課後に練習するのが、一つの様式美なんだから。まぁ、いいわ。素直に要求を呑まなかった場合に備えて、こっちにも策があるから」
ゲンスケ「あくまでも、自分勝手な要望を押し通す気なんだな。こっちだって、卒業式に向けて練習しなきゃいけなくなってしまったというのに」
タマキ「ピアノの技量を確かめるため、課題曲を出します。ノーミスで弾ければ、今まで通り使って良いわ。これが、そのスコアよ」
タマキ、譜面台にスコアを置く。
ゲンスケ「聞いちゃいないな。――ベートーベンか」
タマキ「付箋が貼ってある曲を、始業式の日の放課後までに練習しておくこと。良いわね? せいぜい、頑張りなさい」
タマキ、退室。
ゲンスケ「さてと。仕方ないから、譜読みするか」
ゲンスケ、付箋のページを開く。
ゲンスケ「ん? これ、バイオリンとの協奏曲じゃないか。演奏相手を探せっていうのか?」
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@北館三階
タマキ(フッフッフ。今頃、スコアを開いて焦ってることでしょう。バイオリンの腕が立つ人間なんて、一介の公立高校に、そうそう居るはずないわ。部室はもらったも同然ね)
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@生徒昇降口
ゲンスケ(待ってるときに限って、なかなか姿を現さないんだな)
ミツテル、ゲンスケに向かい、駆けつける。
ゲンスケ「遅い」
ミツテル「申し訳ありません、師匠。でも、どういう風の吹き回しですか? 急に自分を呼び出すなんて」
ゲンスケ「単刀直入に訊く。星見は、バイオリンを習った経験があるか?」
ミツテル「そんな高尚な趣味は、不肖星見にはありませんよ」
ゲンスケ「そうか。無いか」
ミツテル「お役に立てなかったようで」
ゲンスケ「気にするな。そう簡単に事が運ぶとは思ってない」




