#035「セイウチと大工」
@生徒会室
コウタ「文化総務の仕事は、文化祭が終わっても山積みなんだな」
アイ「あぁ。雑務が多くて、なかなか面倒なんだ。すまないな、手伝わせて」
コウタ「良いって。生徒から提出された会計帳簿の点検だから、半分、会計の仕事みたいなものだ。――祭の準備が進んで、浮き立っていた校内も、ようやくいつもの落ち着きを取り戻してきたよな」
アイ「あぁ。秋も深まって、風が涼しくなってきたものだな。――クラスのティーシャツは、一組から順に、青、黒、赤、紫、緑、橙、と」
コウタ「月が変わったら、今度は、体育祭だな。海原は、自分の仕事を覚えてるんだろうか? ――六組の領収書も問題無し、と」
アイ「どうだか。名ばかり総務だからな。――勘定が合わないと思ったら、セルの選択範囲がズレてたんだな」
コウタ「そっちは終わったか、天王寺?」
アイ「こっちも、もう、クラスの分は済んだから、あと、クラブの分が終われば完成だ。火野くんは、先に帰って良い。おつかれさま」
コウタ「そうか。おつかれ、天王寺」
*
@北館三階
トオル「(準備室からココまで、イーゼル運びを肩代わり。目の前にジッとしているせいで、緊張してアタフタしてしまわないよう、ポーズを維持しながらも、描き手にさり気ない話題を提供することで緊張を解く心配り。何より、長身と顔面偏差値の高さを惜しげもなく利用する、その狡猾さ。)クゥ。許すまじ」
アズサ「嫉妬は醜いぞ、美術部長くん」
トオル「誰?」
アズサ「パンパカパーン。風学園のタイムズ、神園梓だよ」
トオル「上履きが赤色ということは、二年生ですね。それから、クラスは四組でしょうか?」
アズサ「鋭いね。どうして四組だと思ったんだい?」
トオル「手の横に木炭の汚れがありますし、スカートに消しパンの屑があります。そして、今日、午後に美術の授業があったのは、芸術系だけです」
アズサ「エクセレント。美術部の部長でなければ、新聞部に勧誘してるところだよ。それは、さておき。話を戻すよ。茶子ちゃんは副会長にホの字、ゾッコン、クビッタケなのさ。諦めたまえ」
トオル「諦めてますよ。ただ、口惜しさを整理してただけです。――ところで、何故にイーゼルを一人で二台も持っているのですか?」
アズサ「鈍いね。その優秀な頭脳細胞を働かせたまえ。灰色のシナプスをスパークさせるのだ」
トオル「シナプスではなく、ニューロンだと思いますけどね。――ひょっとして、ペアを探してるんですか? そうだとしたら、はなはだ非効率に思えますけど」
アズサ「身も蓋も無いことを、サラリと言わないでくれたまえ。いつでも受け入れ万全、準備万端、万々歳で張り切ってる自分が、滑稽に思えてくるじゃないか。少しは先輩に気を遣うべきだ。こう見えても、ロマンチストで、ハートが繊細なのだからね」
トオル「すみませんね。そんな内情が秘められているとは、つゆ知らず」
アズサ「本気で悪いと思うなら、償いとして、モデルになってくれたまえ。多少、垢抜けないが、我慢しようではないか」
トオル「妥協案ですか。まぁ、自分もペアを探さないといけないと思ってたところです。お引き受けしましょう。――それでは、中に入りましょうか?」
アズサ「ウム。――突撃っ」




