#034「スペードの騎士」
@生徒会室
ハイジ「天王寺さんの帽子は、頭全体にスッポリ被るタイプじゃなくて、右上にチョコンと乗せてるだけなんだ」
アイ「あぁ。このほうが、顔に陰がかからないから、表情が判りやすい」
コウタ「頭蓋骨のてっぺんに、五寸釘でも刺さってるのか?」
ソラ「それじゃあ、流血沙汰だよ。髪留めで固定してあるんじゃない?」
コンペイ「正解」
レモン「着替えられたみたいね。それじゃあ、そろそろステージに移動するわよ」
*
@音楽室
スイト「フゥン。お兄さんの名前は、雁緒さんっていうのか。でも、まさか二年目の三年生をしてる十九歳とは、ね」
チャコ「おまけに、わたしのことを何かにつけて管理したがるので、正直、困ってるんです」
スイト「可愛い妹に変な虫が付かないように、という兄なりの思い遣りなのかもしれないけれど」
チャコ「行き過ぎですよ。重たくて、しようがない」
スイト「ハハハ。――ねぇ、これ、遠目だと囚人服みたいだと思わない?」
チャコ「もしくは、パブロ・ピカソですね。似合ってますよ」
スイト「ありがとう。茶子ちゃんも、そのエプロン姿、とても可愛いと思うよ」
チャコ「ありがとうございます。あの、翠人先輩」
スイト「何かな? もしかして、本番前になって、緊張してきちゃった?」
チャコ「いえ、そうではなくて。そのぉ。文化祭が終わったあとの話なんですけど」
スイト「打ち上げのこと? 金さんの発案で、みんなで焼肉に行こうかって流れになってるけど、来たくなければ、無理して参加しなくてもいいよ」
チャコ「あっ、いいえ。そのことでもなくてですね。この前の、芸術系合同授業のことなんですけど」
スイト「あぁ、その話か。二人一組になって人物画を描こうって課題が出たところだよね」
チャコ「そう、それです。翠人先輩は、誰かペアが決まってるんでしょうか?」
スイト「いいや。ギリギリまで決まらなければ、最悪、神園さんでも良いかと思ってるところ。茶子ちゃんは?」
チャコ「わたしも、まだなんです。それで、あのっ」
スイト「待って。その先は僕に言わせて。――僕と、デッサンのペアになってください。お願いします」
チャコ、スイトが差し出した右手を握る。
チャコ「こちらこそ」
トウヤ、入室。
トウヤ「やっぱり、まだココに残ってたんだな。月島先生なら、もう体育館に居るぞ。早く来いよ」
スイト「ハァイ、すぐ行くよ。――僕が鍵を閉めるから、土橋さんは先に行ってて」
チャコ「あっ、はい」
チャコ、退室。
トウヤ「悪いな。せっかくの良いムードを台無しにしてしまって」
スイト「ちっとも悪いと思ってないくせに」
トウヤ「まぁな。それより、木場。土橋の淡い恋心に気付かないほど、鈍感ではないだろう? 何で両想いだと伝えて、安心させてやらないんだ?」
スイト「土橋さんって、照れる顔も怒った顔も可愛いと思わない?」
トウヤ「質問に質問で返して、はぐらかすな」
スイト「土橋さんの口から、明確な気持ちを聴きたいからだよ」
トウヤ「なるほど。底意地の悪いことですな、ヒネクレ王子。この、送り狼」
スイト「襲った覚えは無いよ。それに、どちらかといえば羊だよ」
トウヤ「表面上は、だろう? 心の中で牙を剥いてるくせに」
スイト「木場だけに?」
トウヤ「自分で言ってりゃ、世話無いな。――そろそろ移動しないと、始まってしまう」
スイト「そうだね。急ごうか」




