#031「偽海亀のスープ」
@生徒昇降口
トウヤ「おつかれ、木場。また、あとでな」
スイト「おつかれさま。また、十七時前にね。――あっ」
スイト、上を見上げる。
スイト「(雨だ。今朝の予報では、一日中曇りで、夜まで降る心配はないって言ってたのに。大ハズレだな。何とやらと秋の空は、コロコロ変わりやすい。)アレ?」
チャコ「あぁ、翠人先輩。おつかれさまです」
スイト「おつかれさま。誰か待ってるの?」
チャコ「いいえ、そのぉ」
スイト「ひょっとして、傘を忘れたの?」
チャコ「はい。……あっ」
スイト、傘を広げ、チャコに近付ける。
スイト「途中まで送るよ」
チャコ「えっ、でも、遠回りになると思いますから」
スイト「止むまで待つつもり? 秋の日は釣瓶落としだよ。暗くならないうちに帰らなきゃ、お家の人が心配するよ。僕なら、遠回りになっても構わないから」
チャコ「それじゃあ、お言葉に甘えて。ありがとうございます」
*
@庚午中央商店街
スイト「雨、止んだみたいだ」
スイト、傘を畳む。
スイト「茶子ちゃんの家は、この近く?」
チャコ「もう少し先です。でも、もう、ここまでで。――あっ、電話だ」
スイト「出て良いよ」
チャコ「もしもし。……あっ、お兄ちゃんか。……いま? 庚午中央商店街。……そう。それじゃあ、待ってるわ。……はい。――すみません」
スイト「気にしないで。お兄さんから、何だって?」
チャコ「すぐ、ここに来るそうです」
スイト「そう。あまり、乗り気じゃないみたいだね」
チャコ「えぇ。出来れば、外では顔を合わせたくなくて。――あっ、お兄ちゃんだ」
カリオ、チャコとスイトのあいだに割り入る。
カリオ「茶子。男と一緒なら、そう言えよ。変なことされてないか?」
チャコ「失礼ね。翠人先輩は、時代遅れなヤンキーを真似してる誰かさんと違って、品行方正な好青年よ」
スイト「はじめまして。土橋さんと同じく生徒会役員をしています、木場翠人です。よろしくどうぞ」
カリオ「ヘン。俺は、貴様とよろしくする気は、これっぽっちも無い。――こういう奴に限って、腹の中が真っ黒なんだぞ、茶子。甘い顔と言葉に騙されるな」
チャコ「なによ。真っ黒なのは、お兄ちゃんのほうじゃない」
スイト「子学園の制服は、黒の詰襟だもんね。上着の裾を、燕か烏の尾羽根みたいに長く変形させてるけど、寒がりなの?」
カリオ「断じて、違う。――毒されないうちに、とっとと帰るぞ、茶子」
チャコ「毒を撒いてるのは、どっちのほうよ。――それでは、翠人先輩。また、学校で」
スイト「気をつけて、仲良く帰りなよ。またね」
*
@居酒屋チェーン店
トウヤ「それで、どうだったんだ、土橋との相合傘は?」
スイト「見てたの、出歯亀くん?」
トウヤ「俺は、覗いてはいないぞ。他人の純情を玩ぶのも、ほどほどにしないと、のちのちに倍になって返ってくるらしいぜ?」
スイト「それは、どうも。でも、万人に好かれるのは不可能だから、自然体でいるだけだよ」
トウヤ「フッ、余裕だな。性格が歪んでて、食えない野郎だ」
スイト「一応、土橋さんより年上だからね。そちらこそ、マネージャーを振ったそうで」
トウヤ「誰から聞いたんだ? それとも、倉庫の影で見てたのか?」
スイト「風の便りを耳にしたんだ」
♪ピンポーンという呼び出し音。
スイト「ハァイ。ただいま、ご注文を伺いに上がります」
トウヤ「クッ。言葉巧みに逃げやがって」




