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組曲「生徒会」  作者: 若松ユウ
第六楽章 矜持の遁走曲(フーガ)
28/47

#027「赤面と咳払い」

@天王寺家

アイ「(女々しく悩むのは、やめよう。)柄じゃないし」

コンペイ「藍ちゃんの父ちゃんから電話があって、今日は直接、夜勤に出るから帰れないってさ。ノータリンって言うんだっけ?」

アイ「それを言うなら、ノーリターンだ、この脳足りんめ」

コンペイ「何だよ。熱が下がるまで、そばで看病してあげようと思ってたのに。帰っちゃうぞ?」

アイ「おぉ、帰れ、帰れ。清々する」

コンペイ「本当は寂しいくせに。強がりだな、藍ちゃんは」

アイ「顔面に蚯蚓腫れを作りたくなかったら、それ以上、近寄るな」

コンペイ「爪研ぎに使われちゃ敵わないや。一旦、退却しよう」

  *

♪ピピピっという電子音。

コンペイ「何度?」

アイ「覗き込むな。――えぇ、三十七度二分。平熱が高いから、充分、微熱の範囲だな。よし」

コンペイ、立ち上がろうとするアイを座らせる。

コンペイ「よし、じゃないよ。風邪は、治りかけが肝心なんだから。ぶり返したら大変だろう?」

アイ「この程度なら、なんてことないから。激しい運動をする訳じゃなし、ただ、選択科目の履修希望用紙を記入しておきたいだけだ。コンは、もう書いたのか?」

コンペイ「えっ。あぁ、どこにやったかな?」

アイ「仮になくしても、よほどの理由が無い限り再発行しないって、今津先生が言ってただろう。――あぁ、そうだ。このあいだのテストが返ってきただろう。見せろ」

コンペイ「やだよ。持ってないもん」

アイ「嘘を吐け。適当に折ってポケットに突っ込んでおく癖は知ってるんだ。さぁ、大人しく出せ」

アイ、コンペイの服を探る。

コンペイ「やめてよ、エッチ。大家さん、ここに痴女が居ますっ」

アイ「誤解を招くようなことを言うな。まったく、どこで覚えたんだか。そんなボキャブラリーだけは、着々と増やすんだな」

コンペイ「ヘヘッ。いつか役に立つと思って」

アイ「その労力を、勉強に割け。復習しなければ、同じ過ちを繰り返すんだから。――あった。テストと履修希望用紙」

コンペイ「ゲッ。よりによって、英語かよ」

アイ「英語以前に日本語を勉強しろ。いい加減、紺の字を平仮名で書くな。落語家か漫談師みたいに見える」

コンペイ「海原こん平にございます。毎度、馬鹿馬鹿しい小噺を一つ」

アイ「しなくていい。本当に高校生か? 義務教育をやり直せ」

コンペイ「咄嗟に漢字が浮かばないことって、よくあるだろう? それに俺は、薄っぺらなエー四用紙一枚に左右されるタマじゃない」

アイ「それっぽいことを言って現実逃避するな。ケンッ、ケンッ」

コンペイ「まだ風邪が治ってなかったんじゃない、雉さん? キビ団子を一つ差し上げましょう」

アイ「違う。これは埃のせいだ」

  *

アイ「進路、どうするつもりなんだ、コン?」

コンペイ「俺は、この頭だから大学は厳しいかなって。どっか、専門学校に潜り込めたら御の字だけどさ。藍ちゃんは?」

アイ「わたしも、大学は厳しいと思う」

コンペイ「ええっ。行きなよ、大学。ノートや教科書をゴム紐か何かで十字に留めたものを小脇に抱えてさ、キャンパスを颯爽と闊歩しなよ。絶対、似合うよ、藍ちゃん」

アイ「だって、わたしの家は」

コンペイ「何とかなるって。それとも、お金の問題以外に、まだ何かあるのか?」

アイ「無責任なことを言うな」

コンペイ「何だよ。心配して言ってるんだぞ?」

アイ「もう、いい。コンの馬鹿」

コンペイ「馬鹿で結構、コケコッコー」

アイ「あのな、コン。俺は馬鹿だから、をセルフハンディキャップに使うな。コンが自分で思ってるほど、コンの地頭は悪くない」

コンペイ「そうそう。やれば出来る子なんだ。本気を出せば最強だから。今は、まだ変身前だから弱いけどさ」

アイ「早くポーズを決めろ、クローバーレンジャー」

  *

コンペイ「書けた?」

アイ「まだ途中だ。これから選択志望理由欄を埋めるところだ」

コンペイ「早く書き上げてくれよ。俺が書けないんだからさ」

アイ「わたしのを写すつもりなのか? 少なからず進路に関係するんだから、自分で考えて、自分で選べ」

コンペイ「だって、藍ちゃんと一緒が良いんだもん」

アイ「コンに意志は無いのか? 呆れるくらい能天気な奴だな。わたしの真似をして、後悔するなよ」

コンペイ「顔、赤くない? また、熱が出たんじゃ」

アイ「うるさい。誰の所為だと思ってるんだ」

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