#027「赤面と咳払い」
@天王寺家
アイ「(女々しく悩むのは、やめよう。)柄じゃないし」
コンペイ「藍ちゃんの父ちゃんから電話があって、今日は直接、夜勤に出るから帰れないってさ。ノータリンって言うんだっけ?」
アイ「それを言うなら、ノーリターンだ、この脳足りんめ」
コンペイ「何だよ。熱が下がるまで、そばで看病してあげようと思ってたのに。帰っちゃうぞ?」
アイ「おぉ、帰れ、帰れ。清々する」
コンペイ「本当は寂しいくせに。強がりだな、藍ちゃんは」
アイ「顔面に蚯蚓腫れを作りたくなかったら、それ以上、近寄るな」
コンペイ「爪研ぎに使われちゃ敵わないや。一旦、退却しよう」
*
♪ピピピっという電子音。
コンペイ「何度?」
アイ「覗き込むな。――えぇ、三十七度二分。平熱が高いから、充分、微熱の範囲だな。よし」
コンペイ、立ち上がろうとするアイを座らせる。
コンペイ「よし、じゃないよ。風邪は、治りかけが肝心なんだから。ぶり返したら大変だろう?」
アイ「この程度なら、なんてことないから。激しい運動をする訳じゃなし、ただ、選択科目の履修希望用紙を記入しておきたいだけだ。コンは、もう書いたのか?」
コンペイ「えっ。あぁ、どこにやったかな?」
アイ「仮になくしても、よほどの理由が無い限り再発行しないって、今津先生が言ってただろう。――あぁ、そうだ。このあいだのテストが返ってきただろう。見せろ」
コンペイ「やだよ。持ってないもん」
アイ「嘘を吐け。適当に折ってポケットに突っ込んでおく癖は知ってるんだ。さぁ、大人しく出せ」
アイ、コンペイの服を探る。
コンペイ「やめてよ、エッチ。大家さん、ここに痴女が居ますっ」
アイ「誤解を招くようなことを言うな。まったく、どこで覚えたんだか。そんなボキャブラリーだけは、着々と増やすんだな」
コンペイ「ヘヘッ。いつか役に立つと思って」
アイ「その労力を、勉強に割け。復習しなければ、同じ過ちを繰り返すんだから。――あった。テストと履修希望用紙」
コンペイ「ゲッ。よりによって、英語かよ」
アイ「英語以前に日本語を勉強しろ。いい加減、紺の字を平仮名で書くな。落語家か漫談師みたいに見える」
コンペイ「海原こん平にございます。毎度、馬鹿馬鹿しい小噺を一つ」
アイ「しなくていい。本当に高校生か? 義務教育をやり直せ」
コンペイ「咄嗟に漢字が浮かばないことって、よくあるだろう? それに俺は、薄っぺらなエー四用紙一枚に左右されるタマじゃない」
アイ「それっぽいことを言って現実逃避するな。ケンッ、ケンッ」
コンペイ「まだ風邪が治ってなかったんじゃない、雉さん? キビ団子を一つ差し上げましょう」
アイ「違う。これは埃のせいだ」
*
アイ「進路、どうするつもりなんだ、コン?」
コンペイ「俺は、この頭だから大学は厳しいかなって。どっか、専門学校に潜り込めたら御の字だけどさ。藍ちゃんは?」
アイ「わたしも、大学は厳しいと思う」
コンペイ「ええっ。行きなよ、大学。ノートや教科書をゴム紐か何かで十字に留めたものを小脇に抱えてさ、キャンパスを颯爽と闊歩しなよ。絶対、似合うよ、藍ちゃん」
アイ「だって、わたしの家は」
コンペイ「何とかなるって。それとも、お金の問題以外に、まだ何かあるのか?」
アイ「無責任なことを言うな」
コンペイ「何だよ。心配して言ってるんだぞ?」
アイ「もう、いい。コンの馬鹿」
コンペイ「馬鹿で結構、コケコッコー」
アイ「あのな、コン。俺は馬鹿だから、をセルフハンディキャップに使うな。コンが自分で思ってるほど、コンの地頭は悪くない」
コンペイ「そうそう。やれば出来る子なんだ。本気を出せば最強だから。今は、まだ変身前だから弱いけどさ」
アイ「早くポーズを決めろ、クローバーレンジャー」
*
コンペイ「書けた?」
アイ「まだ途中だ。これから選択志望理由欄を埋めるところだ」
コンペイ「早く書き上げてくれよ。俺が書けないんだからさ」
アイ「わたしのを写すつもりなのか? 少なからず進路に関係するんだから、自分で考えて、自分で選べ」
コンペイ「だって、藍ちゃんと一緒が良いんだもん」
アイ「コンに意志は無いのか? 呆れるくらい能天気な奴だな。わたしの真似をして、後悔するなよ」
コンペイ「顔、赤くない? また、熱が出たんじゃ」
アイ「うるさい。誰の所為だと思ってるんだ」




