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組曲「生徒会」  作者: 若松ユウ
第六楽章 矜持の遁走曲(フーガ)
26/47

#025「意地と甘え」

@天王寺家

♪ピピピっという電子音。

アイ「(三十九度八分。完璧な風邪だな。)ハァ。大事な時期だっていうのに。でも、まぁ、大人しく寝てれば治るかな」

コンペイ『君たちは完全に包囲されている。大人しくトーコーしなさい』

アイ「(厄介な人間が来た。)投降する気は無いが、熱が下がれば登校する。普通に玄関から入れ、コンペイ糖。ここは、二階だぞ?」

コンペイ、アイが開けた窓から入室。

コンペイ「アラ、ヨッと。いやぁ、すっかり大きくなったよな、あの柿の木。枝もタワワに実ってるけど、惜しいことに、すべて渋柿なんだよな」

アイ「勝手に取るなよ、コン。あれは、下に住んでる大家さんのなんだから」

コンペイ「解ってるって。二個までにするから」

アイ「一個でも駄目だ。ところで、何しに来たんだ? 遊び相手なら、他を当たれ」

コンペイ「優雅な脚線美を拝みに、ボファ。枕を投げるなよ」

アイ「くたばれ、変態野郎。プールに飛び込んで、チアノーゼになれ。そして風邪を引け」

コンペイ「馬鹿だから引かない」

アイ「それじゃあ、夏風邪だ。季節外れの」

コンペイ「無茶苦茶だな。自棄になってないか?」

アイ「うるさい」

コンペイ「そう、興奮するなって。いつも以上に感情的だな。こりゃ、相当、熱が高そうだ。台所は、こっちだよな?」

アイ「ということは、その袋の中身は、もしかして」

コンペイ「ご想像通りでございます。ヘヘン。懐かしいだろう、この手提げ袋。まぁ、布団に横になって待ってろよ」

コンペイ、退室。

  *

アイ(わたしの父親は土建屋で、コンの母親は夜の蝶。学も縁故も無い人間が未経験で稼ごうと思えば、自ずと身体を張った職に限られる。そこに職業選択の自由は無く、そこに職に貴賎がある)

コンペイ『藍ちゃんの家には父ちゃんが居て、俺の家には母ちゃんが居るだろう? だからさ。女の子は父親から、男の子は母親から産まれると思ってたんだ』

アイ(いつか、そんなことを言ってたっけ。タツノオトシゴや、雌鳥じゃあるまいし。……五月と六月の参観日は、毎年、憂鬱だったな。家族に関する作文を発表しようにも、わたしには母親が居ないし、コンには父親が居ないんだもの)

コンペイ『赤は、情熱ヒーローのレッド。青は、冷静ブレーンのブルーなんだぞ』

アイ(あの赤いチェック手提げ、コンも置いてあったんだな。かく言うわたしも、まだ青いチェックのほうを使ってるけど。丈夫に出来てるから、名前の刺繍さえ無ければ外に持っていけるんだけど。……刺繍を入れる前に、コンがそんなことを口走ったとき、コンのお母さんは意外そうな顔をしてたな。きっと、心算と逆だったんだろう。いまなら、その気持ちが理解できるけど、当時は何でだろうと思ってたっけ)

コンペイ『俺、藍ちゃんと本当の家族だったら良かったのにな』

アイ(父親参観は天王寺家、母親参観は海原家が二人分面倒を看ることになってたんだよな。運動会だって、わたしの父が場所取りと写真を担当して、コンのお母さんが弁当担当だったし。それで、お重の中身は、決まって出汁巻きと竜田揚げだったっけ。お店でおつまみに提供してるものだから、お酒が進む、ちょっとシツコイ味付けなんだよな、これが。今も、変わらないんだろうか?)


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