#012「進まぬ学問」
@生徒会室
コンペイ「誰も来ないな」
アイ「定期試験に向けて、各々で勉強してるんだろう。――ペンを回して遊ぶな」
コンペイ「上手くない? 最近、二回連続で回せるようになったんだ」
アイ「その努力と集中力を、少しは学びに役立て欲しいものだ。――ここは、お願いしてる場面だから過去形だ」
コンペイ「そいつは出来ない相談だな。――今のことなのに、何で過去なんだ?」
アイ「丁寧に言ってるだけだ。距離を置きたいとき、英語では時制をずらすって習っただろう?」
コンペイ「そんなこと言ってたかな、紐無し巾着。彼氏と付き合ってた頃に組んだブランド物の時計のローンが、最近ようやく返済できたって喜んでたのは覚えてるけど」
アイ「どうでもいい雑談を記憶するな。――ここは確定してる未来だから、現在形。この絵は『靴を買いたい』じゃなくて『この靴を買います』だから、バイじゃなくてテイクだ」
コンペイ「難しいな。ところで、形容詞って何?」
アイ「英語以前の問題だな。よく高校生になれたものだ」
コンペイ「ヘヘン。海原家の男子は、先祖代々馬鹿だから大丈夫」
アイ「全然、大丈夫じゃない。よく絶滅しないものだな」
コンペイ「それは、賢いお嫁さんを貰って来たからだと思う。――あぁ、疲れる。甘いものを食べて、脳に栄養を補給しないとな。じゃあ、そういうことで」
アイ「逃げるな」
コンペイ「他人聞きが悪いな。購買に行くだけだって。すぐ戻るからさ」
アイ「待て。信用ならないから、わたしも付いて行こう」
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@日立家
トウヤ「何で武田信玄がサングラスを掛けてるんだ?」
ハイジ「似合うかなぁと思って」
レモン「サインペンで落書きしないの。蟹さんが見たら怒るわよ?」
トウヤ「そういう金は、赤ペンで口紅と頬紅を書くな。上杉謙信が二丁目のオネエさんみたいになってるじゃないか」
ハイジ「明け方って感じだね。――トイレ、借りても良い?」
トウヤ「どうぞ。廊下に出てすぐ左の突き当たりだから」
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@生徒会室
コンペイ「藍ちゃん。バイト、プリーズ」
アイ「まったく。そういう英語だけは、キッチリ覚えてるんだな。――ひと口だけだからな。包み紙まで食べるなよ?」
アイ、コンペイに菓子パンを差し出す。
コンペイ「わかってるって。昔、キャラメルでやったような失敗はしないから。アムッ」
アイ「イッ」
コンペイ「んっ。はひひょうふ?」
アイ「大丈夫じゃない、この馬鹿。他人の指まで噛み付きやがって」
コンペイ「ヘヘッ。美味しそうだったから、つい」
アイ「少しは反省しろ」
コンペイ「ゴメン」
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@日立家
レモン「どうしたの、そんなに慌てて。心なしか、顔色が蒼いわよ」
ハイジ「僕は生まれて十七年間、霊感が無いと思ってた」
トウヤ「何か視たのか? やめてくれよ」
シオン「ずいぶん騒がしいな。勉強会じゃなかったのか?」
ハイジ「出たぁ」
レモン「橙哉くんが、二人居るぅ」
トウヤ「あぁ、いけない。二人は知らなかったんだな。実は、俺には」
ハイジ「ドッペルゲンガーだぁ」
レモン「白装束の幽霊だ。呪わないでぇ」
シオン「よく見ろ。これは、陽学園の制服だ。――ちゃんと説明しといてくれよ、橙哉」
トウヤ「悪い悪い。――二人とも落ち着け。コイツは、俺の双子の弟の紫苑だ」
ハイジ「えっ。日立くんって、双子なの?」
レモン「双子だとしても、気味が悪いくらいソックリね。まるで鏡に写ってるみたい」
シオン「当事者が一番、気持ち悪いと思ってるさ。利き手、利き足、利き目、利き耳、すべて左右反転」
トウヤ「おまけに、紫苑は内臓逆位だからな。兄弟で鏡合わせだ」
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@生徒会室
アイ「細かい図を見るときは、眼鏡が無いと心許なくて」
コンペイ「その若さで老眼なの?」
アイ「よぉし。眼の仕組みの復習をしよう」
アイ、参考書を高々と掲げる。
コンペイ「タンマ、タンマ。良い子だから、生物の図録を置け」
アイ「さっきのお返しだ。頭に叩き込んでやる。物理的にな」
コンペイ「ギャア。暴力、反対っ」




