奇妙な出会い翼編2
扉が開くと、本や資料が乱雑に積み重ねてあったり、床一面に散乱していたりした。
そんな部屋の奥には、翼に背中を向けてパソコン操作をひたすら続ける白衣の男が居た。
「カタカタカタ…」
翼はそんな、忙しそうな後ろ姿の男に近づく。
「こんにちは。博士お疲れ様です」
その翼の言葉を聞くと、白衣の男はパソコンのキーボードを叩く手を止めた。
そして、椅子と一緒にくるっと体の向きを翼の方に向けた。
「やぁ、新生君こんにちは。今日はもう学校は終わりかい?」
そう、笑顔を見せながら眼鏡を外す。 見た目には博士とは言っても、まだ若い感じがする。年齢的には30代後半くらいか。土色の髪を左で分けていてまだ老けている感じはしない。
「はい、今日はテストだったので」
それを聞いた、博士と呼ばれる人物はにっかりと笑顔を見せた。
「それは丁度良かった。仕事に夢中になっていて、気付いたら部屋がこの有様でね…」
翼は部屋をぐるっと視線だけ動かして眺めてみた。
「…かなり、凄い事になってますね。これを片付ければ良いんですか?」
博士は申し訳ない!と顔の前で、両手を合わせた。
「後で美味しいコーヒー奢るから!」
「いやいや、気にしないで下さい」
翼は困った顔をしながら、そう返事を返した。
この博士…結城駆は、数年前に発見された、天使の研究をしている第一人者。
天使は昔から、普通の人間には無い力があると考えられてきた。
彼はその噂が事実なのか、その力はどんなもので、どんな事に使えるのか等など様々な可能性を追求し続けている。
翼は結城駆とは、約一年前に知り合った。
結城駆の名前は、翼の出身地でも噂で囁かれる程に有名なのだ。
翼がナイトになって初めて、国帝病院に健康診断を受けに来た時に、病院に偶然、駆が現れたのだ。
理由はハッキリとは聞いて居ないが、風の噂では一人娘が大怪我をして、病院に入院していたらしい。
翼は健康診断の順番待ちをしてイスに深く座り込んでいた。
病院は空気が独特の匂いがする。翼はこの匂いをよく嗅ぐ機会が多かった。イヤでも、その頃の事を思い出す。
翼がそんな事をふと思っていた所に、その隣に、駆が偶然座って来た。
駆は両手を前の方で絡め、そわそわと動かしていた。
かなり動揺していたらしく、片方の足はトントントントン…と小刻みに上下していた。
静まり返っている病院の中、駆の足音だけがトントンと響いていた。
そんな事があってから数日後。
翼は、ピースセントラルのある人物から突然の連絡を受けた。
それは、国帝の次期皇帝になるだろうと、言われている人物からだった。