奇妙な出会い翼編
話は一週間以上前に遡る。まだ2月になったばかりのある日の事。
真っ赤な髪の毛を適当にぐしゃぐしゃにした感じで、服装は上着が黒いブレザーで、その下はTシャツ。ズボンはグリーンに黒のチェック柄。
少年と呼ぶには大人じみていて、青年と呼ぶ方がしっくり来るかもしれない。
彼の名前は、新生翼と言う。
彼は国帝機関の国帝研究所に用があり、授業が終わってセントラルから電車に揺られ30分程で北帝の駅に辿り着いた。
国帝研究所は、翼の暮らすマンションからは目と鼻の先程の所に建っている。
翼は部屋には寄らずに、先に研究所に寄る事にした。
今日は今の所、黒翼や魔物の気配などは特に感じられなかった。
国に仕える彼としては、黒翼や魔物から国を護る役目を担っている訳だから、毎日、神経を尖らせているのが当たり前になってしまっていた。
帝研究所の入り口の、ガラスの重い扉を、翼はゆっくり開く。
ガラスの扉越しに中の様子を伺うと、中は広く長い廊下が見える。窓などが無いためか中は薄暗い。
扉を開ききると、冷たくヒンヤリした空気に薬品の匂いが混じった、独特の空気が流れてくる。
結城博士は、多分いつもの様にこの廊下を進んで、エレベーターで地下にある一番下の階に降りて、さらに薄暗い通路を進んだ突き当りの部屋に居るのだろう。
ここまでは、この施設の内部関係者でも、殆どやって来る事は無い。
結城博士が研究に専念したい為、と言う理由を気遣って研究所の関係者は、段々と寄らなくなっていた。
しかし、ここは本当に薄暗い。研究の内容が内容なだけに、外部の人間の目に触れる事が無いようにと建築された建物だからである。
天窓は有るが、そこから得られる光などたかが知れている。
翼は突き当りの部屋の前にたどり着くと、パスをズボンのポケットから取り出して、扉のカードスキャンに通した。
「ピッ」
認証完了、というメッセージが出て来ると、扉はシュッ!と横に開いた。