2月14日翔編
こちらは、「Wing〜天使の聖典〜」(奇妙な出会い)の番外編になります。
話はバレンタインの話になります。昔の作品なので、日にちもおかしい所がありますがご理解くださいな(^o^;
「キーンコーンカーンコーン…」
チャイムの音と共に、退屈で窮屈な授業が終わる。
「お わ っ た…」
銀色の髪を肩の辺りで不揃いに流し、白と青のセーラー服の袖を捲り上げ、黒い手袋、更にスカートの下にはスパッツと言う姿の少女。
名前は結城翔。
授業終了のチャイムが鳴ると、直ぐに大きく口を開けて両手を広げ、あくびをした。
そして、教室の前の方から、オレンジ色の髪の毛。揉み上げは胸の辺りまで伸ばし、後ろは短くしている。
翔より小柄でありながら胸が大きな少女、青斗尋伊が小走りでやって来た。
「翔ちゃん~お昼一緒に食べよう~!」
尋伊は手に、ピンク色の桜模様の巾着袋を持っている。
「あぁあ…眠い…」
翔は眠気でもうろうとした意識で、尋伊の声にヒラヒラ手を動かして、返事を返した。
二人が何時も、お昼を食べるのは学校の屋上。
青く澄んだ空を眺めながら、まだ少し肌寒い流れる風に髪を揺らしている。
屋上のドアの前には「立入禁止」の看板があり、ここには上がって来る人は居ないから、何時も二人きり。
翔にとっては、これ位静かな方が居心地がよく感じられる。
自分を好奇の目で見る存在が居ない。
変に言い寄ってくる存在も居ない。
尋伊も同じだった。
男子からのイヤらしい視線を気にしなくても良い。
気持ちの平穏を脅かす存在も居ない。
お互いに気を許せる友人との平和な時間。
卵焼きを頬張りながら、尋伊は何かを思い出した様に箸の動きを止めた。
「今年って、バレンタインはお休みだよね」
その言葉に翔は、視線だけを尋伊に流す。
「…は?」
翔はあまり関心が無さそうに、風に流されて顔に掛かった髪を邪魔そうに手で横にはねのけた。
「翔ちゃんは、貰った事あるんでしょう?チョコ!」
尋伊はニコッと愛らしい笑顔を見せながらそんな事を言った。
翔はその事に対して、思考するのが面倒臭そうに目を細めた。
「…さぁ。どうだったかな。そう言うの、関心ないし」
尋伊は何となく想像していた通りの翔の反応に、一瞬迷いを見せるが言葉を続ける。
「そう言えば、私達二人でバレンタイン迎えるの初めてなんだよね!」
尋伊が更に、自分は対して関心の無いバレンタインの話題で返して来たために、その話題に少しは合わせようと思ったのか顔を尋伊の方に向けた。
「…誰かにあげる予定でもあるのか?」
翔の超ストレートな質問に、尋伊は瞳を大きく見開き、頬を真っ赤にした。
そして、そのまま下を向いてしまった。
「男が苦手って言っても、嫌いって訳じゃないし。そう言う相手居てもおかしくないよな」
翔は更にそんな言葉を続けた。
「…翔ちゃんは、居ないの?あげる人…」
尋伊は赤くした顔を両手で覆いながら、翔に問い返す。
「居ない」
翔はスッパリと斬り捨てる様にハッキリと、一言でそう応える。
「…そうなんだ?結城君とか長瀬君にあげないの?」
そんな言葉に翔はプッと笑う。
「アタシがやらなくても、春日は毎年「ホワイトデーが大変だ!小遣い無くなる(泣)!」って言ってるし。隼人は「女の子達には申し訳ないけど、丁重にお断りしてるよ」だってさ」
翔はそんな春日と隼人の姿を想像して、よほど耐えられなかったのか口を両手で覆い、笑いを堪えるのに必死な様だった。
「何か楽しそうだね!」
尋伊は釣られて口元に笑みを浮かべる。楽しそうに笑う翔の姿を見るのは、彼女にとってはとても幸せな事だった。
北帝中学では毎年、バレンタインデーやホワイトデーになると、学校にチョコやクッキー等を持って来ている生徒が居ないかどうか、抜き打ち検査をするのだ。
まだ1年生だから、その事を知らずにノコノコとチョコを持って登校して来る輩が沢山居るだろう。
…教師達はそう、目論んでいた。
しかし、生徒達もそんなのに引っかかる程アホでは無い。
先輩から色々聞いて、それぞれ色々対策をしている。
何時もはそう言う「教師VS女生徒」な状況になるらしい。
だが、今年はバレンタインデーは学校が休み。
実はこの学校には昔からバレンタインデーに関する言い伝えなるものが存在しているらしい。
それが、バレンタインに学校の中庭でチョコを渡し、ホワイトデーにそこでお返しを貰えた男女は、永遠の愛を約束される。と言うもの。
尋伊は結局、誰にチョコを渡すのかは口にしなかった。
そして。
2月14日。
翔は自宅の居間で、ソファーに寝そべってテレビを観ていた。
「翔、お前なぁ…女なんだからちゃんと座れよ」
義理の兄、春日は翔の女らしさの欠片も無い姿に、大きく溜息をつく。
「別に自分ちだし、どんなカッコしてても関係無いだろ」
と文句を言いながら起き上がり、今度はあぐらをかいて座った。
「………」
春日は呆れ返って次の言葉も出なくなった。
「♪♪~♬」
翔のスマホが着信を知らせる。
スマホを見てみると、着信は尋伊からだった。
翔は何事かと不思議そうに首を傾げながら、スマホの通話ボタンを押した。
「もしもし…尋伊?どうかしたか?」
『あっ、翔ちゃん!今、忙しいかな?』
向こうからは何となく、嬉しそうな声が返ってきた。
「ん~別に忙しくはないけど」
『じゃあ、これから少し会えないかな?』
尋伊からの電話で、翔は北帝中の校門前にやって来た。そこには、約束の時間よりも先に尋伊が来ていた。
「尋伊、どうした?」
「うん、ちょっとね~!取り敢えず中に入ろうよ!」
翔が、校門を閉められた時に校内に侵入する時の入り口。
フェンスが破られ、人一人が屈んでやっと通れる位の入り口から、二人は屈んで中学の敷地内に侵入した。
翔は尋伊の後を付いて行くと、中学の中庭に着いた。
「…中庭?何かあるのか?」
翔は何が何なのか分からずに首を傾げるが、尋伊は笑顔で翔に顔を向けた。
そして…
彼女の手の上には、小さいながら綺麗に可愛らしく、リボンや花等が飾られた、可愛い箱が。
翔は再び首を傾げる。
「…は?」
「今日、バレンタインデーでしょう!だからコレ!私から翔ちゃんに!」
尋伊は顔を赤くしながらも、翔の前にチョコの入った箱を差し出してくる。
翔は目をパチパチと瞬かせる。
「…はっ?アタシに?」
尋伊はコクリと頷いた。
「中学に入ってから、今まで仲良くしてくれたから…そのお礼!」
中庭は温室な為に、今の季節には咲いていない筈の赤や白、黄色などの薔薇が沢山咲いていた。
翔は明らかに動揺しているらしく、視線を横に泳がせる。しかし、彼女はそれを他人には見せない。
悟られない様に、普段と何ら変わりない様な笑顔を見せる。
「…サンキュ」
箱を受け取ると、翔は尋伊の頭をポンと撫でた。
尋伊は顔を赤くしながら、嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。




