ホワイトデー(女子サイド)番外編3
「…翔ちゃん。」
ガックリ項垂れていたら、背後から声が聞こえてきて、翔はビックリする。
「今度は誰だよ……って、尋伊?」
翔は頑張ったけど残念な結果になった、黒焦げの物体をササッと背中に隠した。
「翔ちゃん、私の為にお菓子作ってたんだよね?」
そんな、セリフに翔は視線を落としながら、ボソッと呟く。
「別に、そう言う訳じゃ…」
尋伊は翔の体の脇に手を伸ばしてきた。
「あ!ちょ、ちょ!」
翔が慌てて止めようとしたが、尋伊はオーブンの中の黒焦げたクッキーを取り出して、ジッと眺めてクスっと笑った。
「そんなに、恥ずかしがるコト無いよ~。どうなったかより、気持ちが大事、だからね!」
「うん、見た目は黒いけど味は美味しいよ!凄く美味しい!」
尋伊は眩しい程の、可愛らしい笑顔になる。
「…ホントは、学校で渡すつもりだったんだ。尋伊が、バレンタインに何で学校に行ったのかと思って。春日達に聞いたら、…その、昔からの言い伝えの事知ったから。」
翔は尋伊には視線を向けずに、横に視線を向けてそう、呟いた。
「うん、翔ちゃんも知ってたんだ?でも、学校で無くても、今でも十分嬉しい!ありがとう!」
翔は尋伊のそんな言葉に、僅かに口元を緩めた。
「…そっか」
尋伊はこっくりと頷いた。
「青斗~!何してんだ~!」
階段の上から春日の声が聞こえる。
「あっ、そうだった。私、結城君に用があったんだった!」
尋伊は慌てて、台所を出て行こうとする。そして、翔の方を振り返りバイバイ、とニコニコしながら手を振って、二階に上がって行った。
そんな様子を穏やかな表情で、翔は見届けた。
…あれ?そう言えば、尋伊の春日への用って、何だったんだ?
一瞬、そんな事が頭によぎった。
「まぁ、良いか!」
そう言い、翔は台所を片付け始めた。




