ホワイトデー(女子サイド)番外編
「…う~ん…」
3月も10日を過ぎた頃。
銀髪を肩の辺りで不揃いに流して、黒い手袋、ファーの付いた青い上着に、黒いインナー、ジーンズのショートパンツ姿で、一人で考え込みながら首をひねる、少女。
この辺りでは一番大きなショッピングモールに来ていた。
彼女の目線の先には、「ホワイトデー」と大きく書かれたボードが天井から下げられ、棚には色とりどりのクッキーやキャンディーなどの並んでるコーナーがあった。
「…こう言うの苦手なんだよな…参ったな…」
翔はホワイトデーのお菓子のコーナーから少し離れた所から、チラチラと視線を向けたり考え込んだりを繰り返す。
「…それにありきたり、だよな…」
先月の14日、尋伊からバレンタインチョコを貰った翔。
いつもは貰ったりしても、簡単に考えていた。そんなに悩まなくても、毎年、この時期にはお店に必ずある、ホワイトデーのお菓子売り場で事足りてた。
そう言う場所の雰囲気は好きではなかったが、貰った以上はちゃんとお礼を返さなければ。とは思ってはいた。
だが、今までは大して親しい訳でもない、クラスメイトや後輩からチョコを貰っていた。
今回はそう言うのとは訳が違う。
中学に入ってから、たった1年ではあるが、今の彼女にとっては尋伊の存在は特別だった。もちろん、そんな事は口が裂けても言うつもりは微塵も無いが。
「…上の雑貨店でも覗いてみるか」
翔はハァ~と重苦しい溜息をつきながら、足早に店の中を歩いて行く。
店の中の他の人達の、視線を感じながら、これも何時もの事、と思いながら。
結局、何も買わずに家に帰って来た翔。
家に向かって来る間も、ずっと一人で考え込みながら歩いてきた。
尋伊は、そう言えばお菓子作りや、お菓子を食べるのが好きだった。
「う~ん…これはどうだか…」
翔はお店のありきたりな物を渡すよりは、少しはマシかなと思い、尋伊には到底腕では敵わないが、自分でクッキーを作ってみる事にした。
「え~と、薄力粉…分量…こんなモンでいいか」
「バター…こんなモンかな」
翔は元々、細かい作業は好きではない。材料の分量はあまり計りに頼らずに、勘でやっていた。
今まで料理も大概、勘で作っていた。それでも何年も料理はしていたから、かなり上手になった。
「後はオーブンに入れる…っと」
そして、翔はオーブンでクッキーが焼けるのを台所で待っていた。




