翼と翔5
次の日。翔は一晩悩み続けながら、結局はメモされている住所に行ってみる事にした。
翼は国帝公園の中の、マンションに住んでいるらしい。あそこは、国の機関の関係者が暮らしている所で、いわゆる社宅にあたる。
尋伊や隼人も此処に暮らしている。二人とも親が国の機関で働いているからだ。
「うーん、来てみたのは良いけど…どこの建物なのかサッパリだな…」
同じ様な外観のマンションが四棟ほど建ち並び、翔は頭を痛めていた。
尋伊や隼人の部屋には行った事があるが、このメモに書かれている住所は別の棟らしい。
「…しかし、来た所で何をするのかって話なんだよな…」
「お前…こんな所で何してんだ。今日は一人か?」
翔が頭を抱えていた時、後ろから突然聞き覚えのある声が聞こえてきた。
声のした方に振り返り、相手の姿を視界に捉えると、翔の胸は再びドキリとなった。
「あ…アンタは、翼…だっけ」
翼は以前にあった時の正装とは違う、黒のブレザーにTシャツ、チェックのグリーンのズボン姿だった。
翼はどうやら学校帰りだった様だ。
「こんちは…今日はあんたに会いに来た」
翔は、レッドウィングの瀬川摩夜と言う人物から貰った小さな紙切れを翼に見せた。
「これは…俺の住所か。これは誰に聞いた?」
翔は素直に答えても良いのだろうか…?と思いつつ、相手の名前を口にした。
「レッドウィングの瀬川摩夜って人だよ」
すると、その名前を耳にした途端、翼は眉毛をピクと動かした。
他の人なら気付かない変化なのかもしれないが、翔は昔から他人の表情や感情を読むのは得意だった。
だから、もちろん翼の僅かな変化も気が付いた。
「やっぱり、あの人ヤバイ人なんだな…」
翔は初めて会った時の言動でそれは把握していた。ただ何故、自分に近付いてきたのかは謎だが。
「まぁ、取り敢えずオレについて来いよ」
そう言うと、翼は公園の敷地内の遊歩道を自分の住むマンションに向かって歩き出した。
翔はとにかく、翼の後ろについて行く事にした。
国帝公園の西口側に建つマンションのすぐ目の前までやって来ると、翼はそこからすぐ脇にある小道を通っていく。目の前には小さな公園があった。
「ここなら問題ないだろ」
翔は何の事かとふと思ったが、直ぐに翼は次の言葉を発した。
「俺の部屋までお前を連れていける訳がないだろ…」
そこまで言われて、翔はやっと言葉の意味を理解した。




