翼と翔2
「あら、あなたやっぱり鋭いのね。普通なら、単に自分の気のせいとか思う人が多いのに、貴方は私の事を力では勝てないのを感じている訳よね」
その女性…摩夜は翔に対してそんな恐怖をじわりと感じさせる様な言葉を発しながら、表情は笑ったままだった。
「それで?アンタみたいな人がアタシに何の用があって来たわけ?見舞いとかではないんだろ?」
翔は摩夜の横を通って行って、入り口の扉を閉めながらそう言った。
「貴方、最近は目に余る行動が多いみたいだから、注意をしに来たのよ。
貴方が立ち回りしただけでも、私達にも多少なりとも影響が出るのよ。後始末とかも含めてね」
「…それは、どう言う意味だ」
摩夜は横目で翔を見つめながらゆっくりと言葉を吐き出した。
「私の口から言うのはどうかとも思ったのだけれど、貴方、命を狙われているのよ」
「…は??」
翔は摩夜の言葉の意味する所が理解できずに、思わずそう言い返す。
その時だった。
コンコン
「翔ちゃん、私だよ〜!お見舞いに来たんだけど…」
「また、空気の読めない子が来たわね…」
摩夜は口元に笑みを浮かべながら、スーツのポケットから小さく折りたたんだ紙切れを取り出し、それを翔の上着のポケットの中に入れた。
「お友達が来たところで、私はさっさと退散するわ。また、何かあったら私で良ければ話は聞くわ。何時でもいらっしゃいな」
そう言うと、扉を開けて病室から出て行ってしまった。
それと入れ替わりに、尋伊が部屋に入って来た。
「こんにちは〜!お見舞いに来たよ!」
「あぁ、ありがとう」
尋伊は翔の表情を覗くような仕草を見せながら、心配そうな表情を浮かべてきた。
「翔ちゃん、何かあった…?大丈夫??」
尋伊は人の感情の変化には敏感で、翔の普段とは違う僅かな表情の変化を見抜いてきた。
「…あぁ、大丈夫だから。ありがとう」
その言葉を聞いても、尋伊はなおも翔を見上げて不安そうな表情をしてきた。
「…大丈夫。尋伊は気にするなよ」
翔は軽く笑いながら、尋伊の頭に手を乗せてポンポンと撫でた。
「…うん。翔ちゃん明日、退院なんだよね?お祝いに何処かに行こうよ〜!」
翔は(お祝い=出掛ける=スイーツ)なんだろうなぁ…と摩夜との会話の緊迫感よりも、こちらのほうが不安になって来た。




