翼と翔
「新生翼クンは西の国の出身で、去年、ピースセントラルにやって来た。
国を護る組織のホワイトウィングに所属し、ナイトとして黒翼と戦っている…」
それが、翔が父から聞いた簡潔な内容だった。なんの目的でわざわざ遠い国の西の国からやって来たのか、高校生でありながら何故、ホワイトウィングに所属しているのか。
考えるとキリのない内容だった。
ただ、父の駆からは一言
「君には大切な存在になれると思う」
と言う、意味不明な言葉が帰ってきた。
駆が何を考えているのかはサッパリ分からないが、1つ気になる事があった。それは黒翼と呼ばれていた存在の事だった。
「それより、黒翼とか黒魔とか言うのはどうにかならないのか?このまま放置して置くのか…?」
「翔が言いたい事は良く分かるよ。けど、君は黒翼には絶対に関わってはいけないよ」
駆は普段の温厚な雰囲気からは想像の付かない表情で、重苦しい圧力を掛けてきた。
(親父…人の話は無視か…一体何をそんなに頑なに守ろうとしてるんだ…?)
実の娘の翔でさえも、ここの所の駆の思考は理解ができなかった。
そして、翔が病院に運ばれてから一週間と言う長い間、身体検査やら何やらで結局は入院させられる羽目になった。
「はぁ…退屈だ…暇だな…」
翔は病院の個室に入院させられた為に、周りには人は居らずただ何となく窓から景色を眺めていた。
黒魔との戦いの緊張感からすると、今はとても退屈なものだと思っていた。
「こんにちは」
…翔は一瞬、動揺しながら後ろを振り返る。そこには、手を伸ばすと届く距離に全く見た事の無い女性が立っていた。
肩をポンと触れられ、翔は動揺を悟られない様に警戒心を持って、相手を見詰める。
赤紫の長い髪の毛を後ろで束ねて、とても目鼻立ちも良く、スタイルも良い女性だった。
「…アンタ誰…?一瞬で死角に入って来るなんて只者じゃないよね…?」
翔の言葉に、女性はとても嬉しそうにうふふと笑う。
「結城翔さん、初めまして。私は瀬川摩夜。以前、うちの子があなたにお世話になったみたいでね。お礼を言いに来たの…」
うちの子…?翔は言葉の意味が理解出来なかった。
「以前、あなたの偽物が居たと思うんだけど。あの子、うちのメンバーなの。レッドウィングと言う組織で、まぁ私はそのまとめ役ね」
「…あの時の…?」
翔はもう一人の自分の事を頭に浮かべて、再び嫌そうな顔をする。




