2月14日編4
「ちょっと待て!どこに行くんだよ!手ぇ離せよ!」
翔は強引に引かれていた手を、振りほどいて目の前の男を睨みつけた。
しかし、赤毛の男はニコニコ笑っていて、翔は益々苛立ちを覚えた。
「強引に申し訳無い。けど、こうでもしないと君、付いてきてくれなさそうだったから…」
そう言いながら、翔の姿をじーっと見詰める。
「まだ中学生とは思えない美しさだね。結城翔さん。」
「は?アタシの事を知ってるのか…?」
翔は相変わらず、男を不審そうに見上げながらぼそっとそう言う。
「僕の名前は牙城叶と言います。初めまして、結城翔さん…」
そう挨拶をすると叶と名乗る人物は再びニコリと笑った。
「君は国帝研究所の結城駆さんの娘さんで、結城翔さん、だよね?僕に付いてきてくれるかな…?」
それだけ言うと、翔の腕を更に引っ張る。
「は?何すんだ…離せって…」
翔は履き慣れていないヒールの靴を履いているのもあり、脚に踏ん張りが利かずズルズルと引っ張って行かれる。
「お前なぁ、相手が嫌だって言ってるのに、無理やり連れて行くのはどうかと思うぞ?牙城」
叶と翔の後ろから、何処かで聞き覚えのある声が聞こえてきた。
この声は…
「新生…君には関係ないだろう?邪魔をしないでくれるかな?」
牙城と言う少年の発した名前に翔は、ハッとした。
(前に尋伊と一緒に公園で会った男…?)
翔の頭にはっと男の姿が浮かんで来ると同時、翔の身体は軽々と男に持ち上げられた。
「俺には関係ないんだけどな…親父さんの娘だって分かった以上、無視も出来ないんでね…」
「は?コイツ何を言ってるんだ…」
牙城は、新生と言う男にはわ~わ~と文句をつけはするが、それ以上は何も抵抗して来ない。
翔は今度は、新生と言う男に抱えられ、何処なのかもサッパリ分からない場所に降ろされた。
「えーと…ここは…?」
翔は降ろされた場所で周りを見回すが、人気は無い。恐らくホテルの中でも上の方の階で、限られた人間しか入れない場所なのだろう。
「俺はまだ仕事があるんでね。お前…もう、ああ言う輩には捕まるなよ」
男はぶっきらぼうながらも、翔の身を案じてくれていた様だった。
「…あ、…ありがとう…」
翔は何となく、男の顔を見れずに下を向きながらボソリとお礼を口にした。
「本来なら、あんな面倒臭いことに干渉なんてしないんだけどな…」




